監査役制度

監査役とは

2021年8月
東京大学 名誉教授
神田 秀樹

日本の会社法上、同法上の非公開会社かつ非大会社と監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除いて、監査役は株式会社の常設機関である。監査役制度は戦前から存在したが、1950年の商法改正で監査役の権限は縮小された。しかし、1974年、1981年、1993年、2001年の一連の商法改正によって、監査役の権限と独立性が広範囲に強化され、監査役制度は現在の姿になり、それが2005年会社法にも引き継がれている。以下では、監査役会の設置が義務づけられる会社法上の大会社かつ公開会社について述べる。

監査役は株主総会で選任され、取締役の職務の執行を監査することと監査報告を作成することがその職務である。監査には、業務監査と会計監査とが含まれる。業務監査は、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれている。

会計監査は、定時株主総会に計算書類が提出される前に行われ、株主総会の招集通知時に、会計監査と業務監査の結果が記載される監査役会の監査報告が株主に提供される。2002年の商法改正で導入された連結計算書類についても監査が行われ、監査役の監査の結果が定時株主総会に報告される。

大会社(最終事業年度の貸借対照表上の資本金の額が5億円以上または負債の総額が200億円以上の株式会社)については、監査役制度が強化されている。すなわち、大会社かつ公開会社であれば、監査役は3人以上必要で、かつ常勤の監査役が最低1人必要であり、また社外監査役(その定義は後述)が監査役の数の半数以上必要である。そして監査役会が設置される。

監査役は、株主総会の決議で選任される。選任決議の定足数は総株主の議決権の3分の1を下回ることができない(取締役の選任決議と同じ)。なお、取締役と同様の欠格事由があるほか、監査役はその会社または子会社の取締役・支配人その他の使用人、子会社の執行役を兼務することはできない。

監査役は、他の監査役の人選につき株主総会で意見を述べる権利を有する。また、監査役を辞任した者は、その後最初に招集される株主総会に出席して意見を述べる権利を有する。他の監査役も同様である。そして、監査役会は、株主総会に提出される監査役の選任議案について同意権を有し、また監査役の選任議案の提出権を有する。そして、監査役会は、会計監査人の選任・解任・不再任議案の内容を決定し、取締役が会計監査人の報酬を定める際の同意権を有する。

監査役の任期は、取締役(2年)と異なり4年である。

監査役の報酬は、取締役の報酬と別に、定款または株主総会決議で決定される。各監査役の個別の報酬について定款または株主総会決議がないときは、各監査役の報酬は株主総会決議の範囲内において監査役の協議によって定める。監査役は、株主総会において、監査役の報酬について意見を述べることができる。

大会社かつ公開会社では、監査役は3人以上であることを要し、かつ1人以上の常勤の監査役を定めなければならない。また、監査役の半数以上は、就任前の10年間は会社またはその子会社の取締役・執行役・支配人その他の使用人であったことがないこと、会社の親会社の取締役・監査役・執行役・支配人その他の使用人でないこと、会社の取締役・支配人その他の重要な使用人の配偶者または2親等内の親族でないこと等の法定の要件を満たした者でなければならない(社外監査役)。そして監査役会が設置される。したがって、大会社かつ公開会社では、日本のボードシステムは2層制であるということができるが、ドイツのシステムとは大きく異なる。

監査役と会社との関係は委任である。したがって、監査役は、職務の遂行に際しては、会社に対して善管注意義務を負う。監査役の職務は、取締役の職務の執行を監査することであり、この監査には業務監査と会計監査とがある(なお、非大会社かつ非公開会社では会計監査に限定することができるが、この場合については省略する)。業務監査は、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれている。ただし、法令には取締役の善管注意義務も含まれるので、取締役の経営判断にかかわる事項についても、善管注意義務違反がないかどうかを監査することになる。会計監査は、計算書類およびその附属明細書を監査することであるが、金融商品取引法上の監査とは異なり、定時株主総会の前に実施される事前監査という点に特徴がある。定時株主総会の開催日の2週間前までに発出される招集通知時に、会計監査と業務監査の結果が記載された監査役の監査報告が提供される。金融商品取引法適用会社は同法により連結財務諸表の作成が義務づけられるが、会社法上も連結計算書類の作成が義務づけられ、これについても監査役の監査が行われる。

監査役には、これらの職務を遂行するために、会社法上さまざまな権限が与えられている。

(1)報告要求・調査
 監査役は、いつでも取締役および使用人に対して事業の報告を求め、また会社の業務・財産の状況を調査することができる。取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合には、監査役からの要求がなくても、直ちに監査役会にそれを報告しなければならない。また、監査役は、一定の要件のもとで子会社に対しても報告を要求し、その業務・財産の状況を調査する権限を有する。なお、監査(調査を含む)に要した費用は会社が負担する。

(2)取締役の違法行為の阻止
 監査役は、取締役会で違法または著しく不当な決議がされることを防止するために、取締役会のすべての会合に出席しなければならないし、必要な場合には意見を述べなければならない。また、取締役会の場に限らず、取締役の不正行為またはそのおそれ、法令・定款違反または著しく不当な事実があると認めた場合には、遅滞なく取締役会に報告することを要し、必要があれば取締役会の招集を求め、または自ら招集することができる。そして、そのような決議または法令・定款違反の行為を防止または是正することができなかった場合でも、取締役が株主総会に提出する議案・書類に法令・定款違反または著しい不当性があれば、株主総会にその調査の結果を報告することを要する。また、取締役の法令・定款違反の行為の結果、会社に著しい損害が生じるおそれがある場合には、取締役に対してその差止めを請求することができる。その他、株主総会の決議取消しの訴えなどの原告適格が認められる。

(3)会社・取締役間の訴訟
 会社・取締役間の訴訟は、監査役が会社を代表する。このため、会社が取締役を訴えるかどうかの判断も監査役が決定する。また、取締役に対する株主からの提訴請求を受けるのも監査役である。監査役には、株主代表訴訟が提起された際に、会社が被告取締役側に補助参加することについての同意権が与えられており、また取締役の責任軽減(一部免除)に関する同意権が与えられている。

(4)会計監査
 会計監査とは、計算書類およびその附属明細書を監査することであるが、大会社かつ公開会社は、株主総会において公認会計士または監査法人を会計監査人として選任しなければならないが、選任議案の内容は監査役会に決定権限がある。そして、大会社では、会計監査は第1次的には会計監査人が実施し、その監査報告は監査役会と取締役会に提出される。監査役は、会計監査人の監査の方法・結果の相当性を判断する。もし相当でないと認めた場合は、自ら監査したうえで、その結果について監査報告に記載する。なお、会計監査人は、取締役の職務遂行に関し不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見した場合には、遅滞なくそれを監査役会に報告しなければならない。また、監査役は、必要があれば会計監査人に報告を求める権限を有する。以上のように、大会社かつ公開会社では、監査役は米国の監査委員会と同様に、会計監査を実施させることが職務であるということができる。定時株主総会の招集通知時には監査報告が提供され、会計監査および業務監査の結果が記載される。監査報告は大会社かつ公開会社では監査役会が作成するが、各監査役は自分の意見を付記することができる。連結計算書類についても監査が行われ、監査役会の監査報告が作成される。

監査役は、善管注意義務違反その他の任務懈怠があれば会社に対して損害賠償責任を負うほか、職務の遂行に際して悪意または重過失があった場合または監査報告に虚偽記載があった場合には、第三者に対しても損害賠償責任を負う。

【付記】監査等委員および監査委員について
 会社法上の大会社かつ公開会社は、監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の3つの選択肢がある(どの機関設計とするかは登記する)。会社法がこのような機関設計の選択制を認めたのは、複数の仕組みのいずれもが制度としての合理性があると考え、その選択を各会社の判断にゆだねることとしたためである。

監査等委員会設置会社と監査等委員
「監査等委員会設置会社」制度は、2014年会社法改正で導入された制度である。取締役会と会計監査人を置く会社は、定款に定めることにより監査等委員会設置会社となることを選択することができる(なお、そのような会社は後述する指名委員会等設置会社となることを選択することもできる)。監査等委員会設置会社では、監査役は存在しない一方、監査等委員会が置かれ、その構成員である監査等委員の過半数は社外取締役でなければならない。監査等委員会設置会社では、監査役会設置会社における監査役・監査役会の役割(監査)のすべてと取締役会の役割(監督)の一部が監査等委員会に一元化され(監査等委員以外の取締役の任期は1年、監査等委員である取締役の任期は2年)、その一方で、一定の条件のもとで(取締役会の過半数が社外取締役である場合または定款で定めた場合に)業務執行の決定権限を取締役会から取締役に大幅に委任することが認められる(委任できる事項は後述する指名委員会等設置会社で取締役会から執行役に委任できる事項と同じ)。

監査等委員会は、監査等委員となる取締役として株主総会で選任された者全員で組織し(その過半数は社外取締役でなければならない)、その職務は、取締役の職務の執行の監査および監査報告の作成、株主総会に提出される会計監査人の選任・解任・不再任議案の内容の決定、会計監査人の報酬に関する同意、監査等委員以外の取締役の選任等および監査等委員以外の取締役の報酬に関する意見の決定である。なお、監査等委員である取締役の報酬は、各人の報酬について定款または株主総会決議がないときは、各人の報酬は株主総会決議の範囲内において監査等委員である取締役の協議によって定める。監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の報酬について意見を述べることができる。なお、監査等委員会の権限を取締役会の権限とすることはできない。

監査等委員会は、監査役会設置会社の監査役および監査役会の権限に相当する権限を有するほか、いわゆる妥当性監査の権限も有する。これに応じて、会社法は詳細な規定を設けている(会社への費用請求権・調査権・取締役会への報告義務・株主総会への報告義務・取締役の行為の差止請求権・取締役と会社間の訴訟における会社の代表等)。なお、計算書類の作成・監査等については、監査役会設置会社の監査役・監査役会に代わって監査等委員会が決算監査を行うことになる(連結計算書類も同じ)。このほか、監査等委員会設置会社では、監査等委員以外の取締役が利益相反取引(会社・取締役間の取引)をする場合にその取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、取締役の任務懈怠の推定が生じないこととされている。

監査等委員会設置会社では、監査役会設置会社が上述したように監査役の独任制をとっていることと異なり、監査は監査等委員会という組織で行うことが想定されている。このため、監査等委員会設置会社については監査役会設置会社とは異なる規律が設けられている(たとえば、監査役会設置会社と異なり、取締役の職務の執行の監査等は個々の監査等委員ではなく監査等委員会の職務と規定され、また常勤の監査等委員を置くことは要求されない等)。また、監査等委員会は会議体として規定されている(たとえば、監査役会と異なり、定足数の規定がある等)。しかし他方において、監査役会設置会社の規律を引き継いだと思われる規律が少なくない(たとえば、監査等委員会の議事録については取締役の閲覧・謄写権がなく、監査等委員会の招集期間の短縮は取締役会決議でなく定款の定めによる等。また、監査等委員会の職務執行の状況を取締役会に報告する義務はない)。これらの点は、次に述べる指名委員会等設置会社の監査委員会と異なる。

指名委員会等設置会社と監査委員
「指名委員会等設置会社」制度は、2002年の商法改正で導入された制度である。2005年会社法により名称がそれまでの「委員会等設置会社」から「委員会設置会社」に改められ、さらに2014年の会社法改正で「委員会設置会社」から「指名委員会等設置会社」に改められた。取締役会と会計監査人を置く会社は、定款に定めることにより指名委員会等設置会社となることを選択することができる。指名委員会等設置会社においては、取締役会の役割は基本事項の決定と委員会の構成員および執行役の選定・選任等の監督機能が中心となり、指名委員会・監査委員会・報酬委員会の3つの委員会(いずれも社外取締役が構成員の過半数であることを要する)が監査・監督の役割を果たす(監査役や監査役会は存在せず、監査委員会がその役割を果たすことになる)。監督と執行が制度的に分離され、業務執行は執行役が担当し(取締役は原則として業務執行はできない)、会社を代表する者も代表執行役となるほか、業務執行の意思決定も大幅に執行役にゆだねられる(法定の基本事項を除いて、業務執行の決定権限を執行役に委任することが認められる)。なお、取締役が執行役を兼ねることは認められる。また、取締役の任期はつねに1年であり、執行役の任期も1年である。また、指名委員会等設置会社では、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社と異なり、取締役・執行役の個人別の報酬の内容は報酬委員会が決定する。

3つの委員会は、それぞれ、取締役会決議で選定した委員(取締役でもある)3人以上で組織するが、各委員会につき、その過半数は社外取締役でなければならない。同じ取締役(社外取締役を含む)が複数の委員会の構成員を兼ねることは認められる。なお、監査委員会の構成員(監査委員)は、その会社・子会社の執行役・業務執行取締役または子会社の支配人その他の使用人を兼ねることはできない。なお、各委員会の権限を取締役会の権限とすることはできない。

監査委員会の職務は、執行役・取締役の職務の執行の監査および監査報告の作成、株主総会に提出される会計監査人の選任・解任・不再任議案の内容の決定、会計監査人の報酬に関する同意である。監査委員会は、監査役会設置会社の監査役および監査役会の権限に相当する権限を有するほか、いわゆる妥当性監査の権限も有する。これに応じて、会社法は詳細な規定を設けている。計算書類の監査については、監査役会設置会社の監査役・監査役会に代わって監査委員会が決算監査を行うことになる。なお、監査は監査委員会における組織監査を想定しており、この点は監査等委員会設置会社の監査等委員会と同じであるが、上述したように、指名委員会等設置会社の監査委員会に関する会社法の規律は監査等委員会設置会社の監査等委員会と異なっている点もある。

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