今回は、近年目覚ましい成長を遂げ、2024年には上場を果たした株式会社タイミーの代表取締役である小川嶺様と監査役の川崎聖子様に、同社の創業当時のエピソードから上場に至るまでの歩み、そして経営者が監査役に期待する役割等についてのお話を伺いました。
―貴社の沿革や事業概要についてご紹介ください。
小川氏 当社は2017年に設立した会社で、現在8年目を迎えております。私は、過去に一度アパレル系の会社を起業したのですが、残念ながらうまくいかず、会社を畳む結果となりました。当社はその経験を経て設立した2社目となります。
最初の起業に失敗した後、物流、飲食、コンビニなどでの日雇い労働を経験した際、「すぐに働けて、すぐにお金をもらえるサービス」が世の中にあると良いなと感じて、当社の事業を立ち上げました。
現在では、正社員1,200名ほどの規模となり、タイミーキャリアプラスという中途採用事業など様々な事業ポートフォリオを構築して事業を推進しております。
―株式会社タイミーを起業した当時の想いを教えてください。また、いわゆる連続起業家ではなく、会社を持続的に成長させる経営者であることを選択した点についてもご紹介いただけますか。
小川氏 サービス開始から約1年後にテレビCMを開始し、約2年後にはワーカー数が100万人を突破するなど、事業は非常に順調に推移をしていましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、飲食店の休業が相次ぎ、その影響で当社の売上も8割減少するという厳しい局面を経験しました。そのような状況の中で、新たな事業を立ち上げ、会社を支える柱を築こうとしました。連続起業家的に「0 → 1」(構想から新規事業立ち上げまでのフェーズ)が自分の役割だと考えていました。しかしながら、新たに立ち上げた事業はうまくいかず、その一方で、タイミーは飲食業から物流業へと事業領域をシフトすることで、再び成長軌道に乗り始めていました。その過程において、自分が「0 → 1」 だけを繰り返していく連続起業家の道を歩むのか、それとも、「0 → 1」 だけにとどまらず、「1 → 10」(業績拡大に向けてビジネスモデルを構築するフェーズ)、「10 → 100」(ユーザーニーズを満たすためのサービスの拡充をしながら成長を加速させるフェーズ)の全てを経験し、一つの企業を長期的に育て上げる経営者になるのかという分岐点に立ったわけです。
そんな中、株式会社サイバーエージェントの藤田晋氏(代表執行役員 会長)に相談をした際に、「どんな経営者になりたいのか」と言われました。そのとき、自分が藤田氏や孫正義氏(ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員)、三木谷浩史氏(楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長 最高執行役員)のような、創業者でありながら1万名規模の会社を築き上げ、まさに「0」から「100」まで作り上げる経営者に憧れを抱いていることを再認識しました。それ以降は、どのような困難な局面であっても、自らバッターボックスに立ち、意思決定をして、その結果に責任を持つことを続けていかなければ、目指す経営者にはなれないと考え、改めて経営を学び直すため、様々な経営者のもとへ足を運んだり、マネジメントの本を読んだりしながら、経営者の思考へと少しずつ移行していったのだと思います。
―貴社の監査役として選任された経緯をご紹介ください。
川崎氏 2020年の秋頃、当時はまだ当社の組織体制が十分に整っていない状況で、代表はまだ学生でしたが、財務会計のサポートをしていた公認会計士が私の知人だったことから、面白いビジネスをしている若者がいるよ、と当社を紹介され、会社を訪問したのが最初です。本当に何もない、机が幾つかあるだけのオフィスでしたが、代表とお会いしてお話を伺って面白いビジネスだと思いました。私自身もこれまで「働くとは何か」という問いを自問しながらキャリアを重ねてきたこともあり、タイミーのビジネスモデルは非常に新鮮で、あらゆる立場の働く人を応援できる大きな可能性を秘めたサービスだと強く感じました。
そこで、何かお力になれることがあればとお伝えしたところ、監査役就任の打診をいただき、お引き受けしました。
小川氏 当時は、25歳1か月以内に上場すれば「最年少上場」になるという目標もお話ししていました。設立して3年ほどで、従業員数百名、売上10~20億円という状況でしたが、上場を目指すには体制の整備が必要で、常勤監査役や監査役会が不可欠であることをお伝えしました。
―川崎様にとって貴社の事業は初めての分野かと思いますが、就任当初に感じたプレッシャーや期待、実際に就任されてみて当初の想像とは異なっていた点などについてお聞かせいただけますか。
川崎氏 プレッシャーを感じることは特にありませんでした。これまで私が携わってきた業務は、言わばグローバルコーポレートクライアントといった大企業を主な顧客とするものでしたが、その後、独立を経てスタートアップ企業とも関わらせていただく中で、当社と出会いました。代表を始め社員一人一人のビジネスに対する想いや意識の高さに触れ、これまで関わってきたスタートアップ企業とは一線を画す存在になるのではないかという期待を強く抱きました。そして、就任してから今日までを振り返ると、当社では社員全員が一丸となってビジネスを考え、実行していることを改めて実感し、良い意味で「期待を裏切られた」、期待以上だったと感じています。
―小川様の「監査役」へのイメージや、川崎様の印象についてはいかがでしたでしょうか。
小川氏 当初は、監査役は経営を監査するので、常に監視され、落ち度がないかを見るのだろうという程度の認識でした。監査役の設置は上場に向けたプロセスの一つで、上場を目指す以上は設置せざるを得ないものというイメージも正直なところあったと思います。
しかし、川崎さんと話をするうちに自分にはない幅広いグローバルな知見や経験を持ち、当社を客観的に捉えて的確な助言をしていただける存在は、上場会社を目指す上で不可欠だと強く感じました。会社が健全に成長できる、言わば伴走パートナーのような存在になるのではないかと思ったのです。さらに、当社のサービスの可能性を深く信じていただいていましたので、ぜひ監査役としてお力添えをいただきたいと考え、監査役への就任を依頼させていただきました。
―川崎様から見た小川様の印象を教えてください。
川崎氏 まず若い方ということはありましたが、本当に誠実で素直な方だと感じました。これは今でもそうなのですが、様々な立場の方からのアドバイスをしっかりと吸収している姿が印象的で、創業者、代表という立場にとらわれることなく、一人一人に真摯に向き合っていて、その姿勢には、私自身も学ばせていただいています。
―お二人のお話から、強い信頼関係が築かれていることが伝わってきました。小川様と川崎様とのディスカッションや業務において、特に印象的だったことはございますか。
小川氏 当社はスピード感を非常に重視しており、日本でも相当のスピードで上場し、規模を拡大してきた会社だと自負しています。そのため、やはり「攻め」の要素が強い会社だと思います。そうした中で、女性活躍や、シニアワーカーの増加、社会貢献性など、これまではややおざなりになっていた領域もあったのですが、川崎さんから、「働くインフラの構築」を目指すのであれば、こうした課題にもきちんと向き合う必要があるのではないかという率直なご意見をいただきました。そういったご意見をいただく機会は非常に多くあります。攻めだけでなく、守りの視点を持たなければ、将来的にタイミーというブランドが毀損してしまう可能性があることに気付かせていただく場面が多く、非常に助かっています。
―小川様とのディスカッションにおいて川崎様が意識していることはございますか。
川崎氏 様々な会議体に参加しているので、代表だけにではなく、いろいろな場所で自分が気付いたことを率直にお伝えしています。監査役だからこう発言しなければならない、という枠にとらわれることなく、組織、会社としてどうしたら良いのか、という視点で、時間をいただいたときに率直にお話ししています。
1on1も、代表とだけでなく、他の取締役や執行役員、さらには従業員とも行っています。会議だけでなく、コミュニケーションツール(Slack)で情報を共有することもあります。様々な場面で情報を得て、感じたことを代表にはその都度お伝えするようにしています。
会社が抱えている課題について、皆が一丸となって取り組んでいけるのはタイミーの良さですが、それだけにとどまらないよう、異なる視点からどうあるべきかを考えながらお話ししています。
―続きは月刊監査役784号(2026年2月号)をご覧ください。