佐々木様は、これまでの御自身のITに関する知見を積極的に活用し、自社において「デジタル監査」の方法を導入されました。今回は、IPO前後における監査役としての活動や、佐々木様が取り組む「デジタル監査」の具体的な方法についてご紹介いただきました。
―まず、佐々木様の監査役就任前の職業や主たる御経歴を簡単に御紹介いただけますか。
私はずっとIT畑の人間で、外資のIT企業の営業職からキャリアをスタートしました。流通業担当という縛りはありましたが、提供するソリューションはメイン商材に関わるものであれば何でも良かったのでハードウエア、ソフトウエア、データベース、データウエアハウス、データセンター、ヘルプデスク、ネットワーク関係もろもろと幅広く扱っていました。
したがって、営業からスタートと言いながら、お客様に提供する様々なソリューションを統括的に見る必要があったため、結果的にプロジェクトマネジメントのような業務が中心となり、そうしたスキルの取得をせざるを得ませんでした。
また、もともと新しいものが好きということもあり、新しいITソリューションを扱うことも多かったです。例えば、当時の会社では、まだデータウエアハウスという言葉が一般的でない頃からデータ分析を行うソリューションを提供するチームに所属し、そのソリューションの販売やデータの分析等を行っていました。そうした経験を踏まえ、当時の会社でのキャリアの後半は、製品企画として新規ソリューション企画にも取り組んでおりました。
その会社で20年ほど働き、次にBI(Business Intelligence)専業の外資ソフトウエア会社に転職しました。営業でありながら、単にソフトウエアを販売するだけではなく、お客様の社内データドリブン文化の構築支援も行っており、そうした文化の会社でした。
その後、アウトルックコンサルティング株式会社に転職しました。初めは営業職で入りましたが、もともと様々なシステムに対する知見や導入・構築に関する経験があったことから、マーケティングを担当したり、IPOを目指す上での内部システムの構築、内部管理の整備のような業務を担当したりしておりました。
そして、2022年6月に監査役に就任し、その後会社の機関設計変更に伴い、監査等委員に就任して現在に至ります。結果的に、私が監査役に就任したのは直前期(N-1期)だったので、本当にぎりぎりのタイミングでした。直前々期(N-2期)には、経理担当者が主にIPO準備をしており、対応しきれない項目をこちらで対処しておりました。
―御社は2023年12月に東証グロース市場に上場を果たされましたが、監査役就任からIPO達成までのプロセスや特に苦労された点、また上場後に特に留意されている点も含めまして、具体的な取組についてお聞かせいただけますか。
取組という点では、就任当初はN-1期でスケジュール的にかなりタイトな状態であったため、整備が遅れている箇所の対応支援に取り組みました。具体的には、内部監査の体制構築やIT統制の支援を行っておりました。また、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を取得したいという営業部門からの要望もあり、その取得支援も行いました。内部統制に関しても整備が十分でない点が見受けられたため、その整備の支援などを行っておりました。
苦労という点では、当社のような企業規模ではプロジェクトマネジメントを担える者がいなかった、ということですね。いろいろな指摘を受けたものを都度片付けてはいくものの、結局スケジュール感も分からない、タスク管理がどうなっているのかも分からない、誰が管理しているのかも分からないという状態だったので、まずはそこの整理をしなければならなかったことに苦労しました。
それに加えて、私は実質的な初代監査役なので、社内に先輩がいるわけでもなく、誰かに質問するわけにもいかず、私自身監査法人出身でもなく監査に関する十分な知識も持っていないという状態だったのも苦労した点の一つです。ただ、その支援については公益社団法人日本監査役協会(以下、「協会」という)が公表している資料の閲覧や、様々な活動で知り合った皆様から御意見を伺えたことは大きかったです。自分の中でそれらを消化しながら日々の監査業務を進めていくことができました。
また、当社だったから監査業務として対応できた点を挙げるとすると、IT企業なので結果的には監査の範囲が余り広くなかったという点になるかと思います。例えば、流通業のように多くの店舗があってそれらを全部回らなければいけないということもなかったですし、工場等で仕掛品の在庫のチェックをする必要などもなかったので、そうした監査業務の負荷は他社に比べると少なかったのかなと思っています。そのため、空いた工数を内部管理的な仕組みづくりにフォーカスできたことが短期間でのIPO実現につながったものと感じています。
ただ、証券会社からは多くの指摘を受けており、「今後対応します」と業務執行側の曖昧な回答がなされるだけで、実質的には対応が必要となっているタスクが未解決のまま徐々に積み上がっていくような状態でした。そのため業務執行側に「それって実際にどう対応しているのですか」と聞くと、「気合と根性で頑張ります」という回答だったので、そうではなくて、きちんとシステムを入れて対応した方がいいですよねというのを一つずつ確認していきました。
そうした状況で、マネーフォワード(以下、「MF」という)経費というシステムのワークフローシステムが使えるとのことでしたので、経費承認については従来のメールではなく、ワークフローを構築し、システムで行う形にしました。システム化することで承認結果がそのまま証跡としても活用できるので、網羅性と正確性を高めることができるようになり、証券会社の審査においても適切に評価していただいたと感じています。
加えて、プロジェクトマネジメントを適時適切に行うようにしたので、社長や役員といった経営層に対していつどのタイミングで何をお願いするのか、何を承認してほしいのかを明確にするようにしました。経営層にとっても自分がこのタイミングでこれを判断しないといけないというポイントが明確になり、業務改善や意思決定のスピードが向上しました。また、社長や役員も同じフロアのすぐ近くに座っているので、何かあったらすぐに相談できる距離の近さも大きかったと思います。
上場後に特に留意している点としては、内部管理体制・内部統制の継続です。当然、上場が我々のゴールではないものの、IPOを目指し、特別体制を敷いて気合で頑張りましょうという雰囲気が社内には少なからずありました。しかし、上場してからもその気合を継続できるかといったらそれは難しいと考えます。上場すれば株主様への責任も伴いますし、継続した業績の向上が必要不可欠であり業務執行側はそこに注力することが当然です。その一方で、上場企業として必要な内部統制は維持しなければならない。限られたリソースにおいて、気合や人の力で頑張りますというのはもう無理なわけです。そうした二律背反状態の中で、自分の得意分野でもあったデジタルの部分をもっと前面に押し出すことで少ないリソースを最大限に活用しようと考え、デジタル監査に挑戦し始めました。
―佐々木様の御経験を踏まえて、IPO前後において監査役等が果たす役割や、IPO準備期間にもう少し取り組んでおけば良かったと感じる点などがあれば率直にお聞かせいただけますか。
IPOにおける評価や審査は、それぞれのタイミングで様々な考え方があると思いますが、やはり業績が重要だというのは一般的に言われていることかと思います。したがって、業務執行側は継続した業績の向上に力を注ぐべきであって、それ以外の上場するために必要な内部管理体制については、COO(最高執行責任者)がいればその方が担当すると思いますし、いないのであればその整備を支援していくというのも監査役等の役割の一つかと考えます。
監査役等として全体を独立して見渡せるという立場をうまく使うことと、役員との距離の近さをいかして内部管理体制の推進を支援していくことが、IPOにおける監査役等の重要な役割の一つでは、と個人的には思います。
振り返りの意味では、できればN-1期ではなくてN-2期などのタイミングで、監査役でなくても全体のプロジェクトを仕切る人材が必要だったと思います。会社の規模によって全く違うと思いますが、例えば、経理の担当者がIPOの準備をする際には、やはり経理業務を中心に見ていかざるを得ないと思いますので、担当者の得意な分野以外を整備するのはなかなか難しいのではないでしょうか。そういう意味で、もう少し早い段階で全社を見渡せる人材がいた方が良かったのではないかと感じています。
また、当社はお陰様で業績面が比較的好調だったので、逆に内部管理の整備が追い付かなくてIPOが実現できないとなってはいけないというプレッシャーもありました。そのため、内部統制や管理面が業績に追い付けるよう、タイトなスケジュールで対応せざるを得なかったので、体制整備にはもう少し余裕を持って取り組めていれば良かったと思います。
―先ほど、協会が公表する資料の閲覧や他社の監査役等の皆様との交流というお話が出ましたが、実際にIPOの取組の中で参考になった点などはありますか。
私は新任監査役等情報交換会やIPO情報交換会等の分科会に参加しておりましたが、参加しているメンバーの所属企業の業種業態はそれぞれに異なっており、また業務経験の偏りもなく新人からベテランの方までいらっしゃったので、バランスがちょうど良かったように思います。グループ討議などの際には、私は営業経験者で質問することに躊躇しないので、「こういうところってどうなんでしょうか?」と、今思えば基本的な内容を率直に質問して笑われてしまうことも少なくなかったのですが、笑いながらも、やはり皆様経験豊富な方が多く、親切に教えていただけました。そうして伺った生きた情報は資料等では入手できないものが多く、知識・経験共に不足していた自分にとって大変参考になりました。
そして、監査役は独任制として一人で監査に取り組んでいるので、いろいろな面で不安も多いと思います。そうした立場で同じように監査に取り組む人がいて、何かあったときに問合せができるということが安心感につながったものと感じています。
もちろん、協会の公表資料なども大いに参考にさせていただいております。ホームページから必要なものをダウンロードして活用しており、今でも当社の監査調書などは全て協会のフォーマットに基づいて作成しています。
―続きは月刊監査役766号(2024年9月号)をご覧ください。