濱口様のお会社では、有価証券報告書の「監査の状況」欄における記載が非常に充実されており、また、株主総会招集通知の中でも、監査役会の監査報告書について補足説明資料を開示されています。今回は、これらの取組みについてお話を伺うとともに、開示資料等も併せて御紹介します。
―御社は有価証券報告書の「監査の状況」の開示が非常に充実されており、金融庁の「記述情報の開示の好事例集」にも取り上げられています。開示を始めるに当たり、どのような背景があったのでしょうか。
監査役に就任した当時は恥ずかしながら、監査役に対する知識が全くと言っていいほどなかったのです。
そうした背景もあり、前例踏襲になることもなく、自分なりの解釈で監査活動への取組みを進めることができ、その中の一つが、「監査の状況」の開示への取組みでした。
当時は、執行側や株主からの要請ではなく、自分が考える監査役会のあるべき姿の一つとして、活動状況をステークホルダーにしっかりと理解してもらう必要があると考えました。監査の実効性を高めるためには、執行側の理解と協力が不可欠です。監査役が何を行っているのかをしっかりと伝えて、理解してもらうことが重要だと考えたのです。外部への開示と同時に、社内における理解促進という意味もありました。
開示に関しても監査役から執行側に開示内容を提示して確認を行っていますが、特にそれに対する指摘や意見を受けたことはありません。むしろ監査役の活動を確認・把握するために開示内容を活用しているとの意見がありました。
―定時株主総会の監査報告書の補足説明資料としても、監査役会の活動について情報を開示していらっしゃいます。それについてはいかがでしょうか。
当社でも毎年、監査報告書のアップデートを行っていますが、株主の方がそれを読まれても、充分に御理解を頂くことは難しいのでは、と思います。そこで、監査報告書に補足説明資料を付けるようにしました。株主の負託に応えるのが監査役の役割でもあるならば、やはり活動内容の結果だけでなく、プロセスもしっかりと伝える責任があるのだと考えました。
作成初期の段階では、監査役会で議論する前に、まずは私がたたき台を作成して社外監査役に確認してもらい、指摘があれば修正していくというプロセスで作成しています。基本は有価証券報告書の記載項目に沿って作成し、内容については金融庁の好事例集等を参照して研究し、アップデートを試みています。
加えて、開示情報の利用者である投資家が何を求めているのかについて、各種の論考等を見て研究しています。その中で原点に立ち返って、そもそも監査役が何を行っているのか、常勤・非常勤それぞれがどのような役割を持っているのかについての整理も行っています。
―監査役会の実効性評価の取組みについて具体的にお聞かせください。
実効性評価については、2015年にコーポレートガバナンス・コードが制定された頃から、実効性評価が取締役会にあってなぜ監査役会にはないのか、本来監査役会も行うべきではないかと個人的に考えていたのです。
実際にやってみて良かったと感じた点は、非常勤の社外監査役との認識合わせにより、お互いの理解が深まって議論が充実したことです。実効性評価のためにお互いの評価についての意見をすり合わせる機会を、監査役会とは別に時間を設け開催しております。実効性評価を継続してきた現在では、その時間が非常に有意義であると考えています。
実効性評価の中で点数を付けることは飽くまで手段であって、本来の目的は自分たちの活動を振り返って監査役同士の相互理解につなげ、より実効性ある監査の実現に向け、お互いの立場から意見を出し合って、自分では認識できていなかった点を整理し議論することにこそ価値があると考えます。
実効性評価というのは、「やらされ感」でやっていると効果はないと思います。目的をはっきりさせることが重要で、自分たちの監査活動の中にどのように組み込むか、方針を固めていないと意味がないのではないでしょうか。
事業の変遷に伴って経営リスクも変化していくため、監査役としての留意点ももちろん変化します。実効性評価の中で1年を振り返ることで、次年度の重点テーマを検討するという点に意義があると考えています。
―最後に、今後の開示の在り方についての考えや、監査活動全般の展望についてお聞かせください。
監査役は事業の変遷に伴走していかなければならない立場です。経営者の伴走者であり、何かあれば補助者となり、時には助言者にもなるというのが、監査役のあるべき姿だと考えています。
また、監査役だから知り得る社内外の情報を執行側に提言していくというスタンスは、今後も継続していきたいと考えます。
企業におけるガバナンス面では年々求められる内容が高度になり、その内容について監査役は情報収集する機会に恵まれている立場にありますので、執行側に最新のガバナンス情報をしっかりと提言していきたいと思います。その一つとして、社外取締役との連携がかなり重要になると考えています。社外取締役には会社への理解を深めてもらい、同じ目線で連携強化を図ることが重要です。社外取締役のそれぞれの知見をより発揮してもらうための環境整備に、監査役としてしっかりと取り組んでいきたいと考えます。
―ありがとうございました。