監査役インタビュー

No.27(21年3月)
元株式会社インティメート・マージャー 常勤監査役 大島 忠さん

テーマ:
十数年の監査役活動を振り返って

大島忠様は、当協会の監査実務部会で幹事をはじめ、監査法規委員会の委員や、監査役全国会議のパネリストもお務めいただきました。このたび、監査役を退任されることになり、その10年以上にも及ぶ監査役活動について、お話を伺いました。

  • ※こちらでは、インタビューの一部をご紹介いたします。
  • ※全文は月刊監査役719号(2021年3月号)に掲載しております。

監査役ご就任時について

―前職の会社(銀行)から、株式会社ウィズ、そして株式会社インティメート・マージャーに移られた際の経緯についてお話しください。
 定年退職のタイミングで、たまたま、会社の後輩の学友が経営する会社が上場を目指しており、監査役に就任してもらえないかとの打診があり、2004年に株式会社メディカル・データ・コミュニケーションズの監査役に就任しました。ただ、この会社が目指していた事業が、行政上の規制の問題等もありなかなか上場が進まず、結局はこの会社を離れることになりました。その頃、また別の紹介もあり、2005年に株式会社ウィズという、上場したばかりの会社の監査役に就任することになったのです。
 ウィズ社は「たまごっち」という玩具がヒットした、ファブレスの玩具メーカーでした。たまごっちそのものはウィズ社が作ってバンダイ社が販売していたのですが、香港に子会社を作り、中国の工場に生産を発注していました。ウィズ社では11年間監査役として活動をしましたが、少子化に伴い玩具の売れ行きが落ちていったことから、TOBによりウィズ社がバンダイナムコグループの傘下に入り、上場廃止となった際に、私は監査役を退任しました。ウィズ社はその後、バンダイナムコグループ内の再編の中で別の会社と合併し、今はもう社名は残っていません。
 ウィズ社にいたときから、私は日本監査役協会(以下、「協会」という)の監査法規委員会のメンバーを8年間務めました。法規委員会では、中小企業の代表という気持ちで取り組んでおり、議論されている内容について、「これがこうなったら、中小企業はどうなるかな」と、常に考えながら発言をしていました。すると、委員会の中でも、いつしか中小企業の声を発する代表者のような存在として、他の委員や専門委員の先生方からも意見を求めてもらえるようになりました。
 そのような経緯もあり、ウィズ社の退社後すぐ(2016年)に、協会の監査実務部会のメンバーの皆さんのご協力もあって、縁もゆかりもなかった株式会社インティメート・マージャー(以下「IM社」という)の監査役に就任が決まりました。ここでは、2019年10月にIPOを果たしています。
 そして先日(2020年12月17日)に、IM社の監査役を退任しました。

十数年間の監査役活動について

―大島様が監査役にご就任されたお会社は、業種は異なりますが、いずれも創業者の方のリーダーシップが強く、今後の大きな成長を志す会社であったかと存じます。そのような、成長著しい会社において監査役実務を担われた大島様のご感想をお聞かせください。
 監査役としてこうあるべきという一本道があるわけではないですが、自分では監査役の歩む道は「正道」であるべきだと思っています。それは社会にとって、会社にとって、社員にとって、株主にとって正しいことなのか、常に自問自答しながら判断していく必要があります。私自身、いまだに青臭いことを言うこともありますし、それを諭されることもありますが、それでもそういう監査役でありたいと思ってきました。
 また、他の監査役にとっては、その方なりの別の正しいやり方があるでしょう。一つ例を示すと、私が監査役として必ず取り組んでいることに、社員全員との面談があり、ここから学ぶことは多かったです。例えばオーナー企業の場合、面談の結果を調書にまとめて取締役会に報告すると、経営者に不都合な発言をした人がばれてしまい、その人が冷遇されてしまうこともあるのです。そのため、調書の中では誰の発言かが分からないよう、あるいは発言者を聞かれても絶対に答えないよう、努めていました。執行からはそのうち、誰が言ったか教えてほしいとは言われなくなりました。
 ただ、面談の中で聞いた会社の改善につながる発言については、調書記載は控えた場合でもタイミングを見つつ、監査役の発言という形に変えて執行には伝えていました。
 そういったことを進めているうちに、社員の方からの信頼が厚くなりますし、本音で語ってくれることも多くなってきましたね。こういった面談内容は、結果を一応監査調書にまとめるのですが、神髄の部分は書けないことがほとんどで、形に残るものではないので、そこは目に見える結果にはできないことが難しいですね。
 なお、面談の際には、私の方から質問内容を決めて聞いてみたり、何か問題はないかを尋ねました。

―そのような活動を通して、社内の問題の芽を見つけることができたのでしょうか。
 二つの会社で内部通報制度がありましたがほとんど活用されず、私は面談を通じてさまざまな話を聞けました。また、不思議なことに、壁に向かって話をしても不満は解消しませんが、誰かに聞いてもらうと、聞く方が適切な解決等を示せない場合でもある程度不満は解消するものなのですよね。時にはかなり真剣な、涙ながらの本音の話を聞くこともできました。
 最近では、コロナ禍でリモートワークが始まってからは、メール等で社員の声が寄せられることもありました。特にリモートワークでは、チャットツール等を活用して仕事をするのですが、文字だけでは意図していないことが伝わってしまうことも多く、補足や弁解が難しいため、行き違いが生じやすいのですよね。私は複数の社員から泣きが入るのを待って「コロナ禍では思わぬミスコミュニケーションが生じやすいこと、これは当社に限った話ではなく、新聞等でも報道されているようにさまざまな会社の中で起こっている事実なので、お互いに十分配慮しましょう」と、発信したりしました。このような書き方をすれば、誰が私宛てにこのような不満を漏らしたかは分かりませんよね。

―コロナ対応は現代的な問題ですよね。そこについてはいかがでしょうか。
 コロナ禍において、このように、社員が悩みを言えるような環境を作れていたことが良かったと思います。面談をしていなければ、こういう不満は監査役には寄せられなかったと思いますね。
 また、コロナ対応ということもありますが、永年の監査役生活においては三現主義(現場、現物、現実)を基本として監査を行ってきましたが、今は現場もない、現物もエビデンスもなくなり、それらがあるのはサイバー空間のみという企業や業務が増えてきているので、監査役の業務のベースは変わらざるを得ないと思います。従来は、現場を一番知っているのは監査役と自認している部分がありましたが、その在り方も変わらざるを得ないでしょう。現代はちょうど過渡期であり、法令や監査ルールは、実際の監査の在り方と乖離しているところが多々あるように思います。
 そこで監査役の皆様にも、今後は監査役活動をこう変えていったほうがよいのではないかと考えてもらって、それを委員会活動や協会の発信活動を通じて学者や弁護士の方々にも知っていただき、検討いただいて、今の時代にふさわしいものや在り方を議論する際に、それが立法事実になって法改正につながっていけば良いと思います。そうすれば、法令の解説書の内容も、変化に合わせて裁判所の判断の在り方も変わっていくと思うのです。
 この監査役の活動においては、協会の監査実務部会がそのベースになれば良いと思います。私が監査法規委員をやっていたときは、監査実務部会の方々にも相談し意見をもらって、委員会で発信してきました。
 このような地道な活動を通じて、新たな時代の監査役像ができていってほしいと思います。

監査役としての十数年間を振り返ってのご感想等をお聞かせください。

―特に印象に残ったエピソードなどをご紹介いただけますか。
 監査法規委員会の委員として、監査役監査基準の改正作業に携わったことですね。平成27年(2015年)の改正の際には、いわゆる各条項のレベル分けを導入することができました。そもそも監査法規委員会のメンバーの多くは大会社所属の方なので、あまり意識されることはなかったのかもしれないのですが、それまでは監査役監査基準の中で、ベストプラクティスという言葉を使い過ぎであったと思うのです。もし協会の監査役監査基準をそのまま新設会社に導入して、そこに記載されていることができなかったら、監査役は裁判で任務懈怠責任を認定されてしまうのです。実際に、改正作業を行っていた当時、そのような裁判例が出ていました。
 そこで、委員会の中で専門委員の先生方のご尽力を得て、各条項のレベル分けができたことが、8年間委員を務めた中での一番の功績だったと思います。
 新興の会社で上場を目指すに当たって、常勤の監査役を設置し、今後監査役会も設置するという際、社内の規程類の整備として、監査役監査基準を導入しようとなったときに、協会からベストプラクティスとして監査役監査基準ひな型が公表されていたら、その内容を加除修正して導入しようとはなかなか思いません。削除するとしてもどこを削除してよいか分かりませんし、相談相手も社内にはいません。中小企業はスタート地点がそのようになっているのです。
 ウィズ社のときはまだこのようなレベル分けがなかったので、私が当時の監査役監査基準のひな型について、内容を取捨選択して自社の基準を作成していました。

監査役等へのメッセージ

―最後に皆様にメッセージをお願いいたします。
 大企業では、監査役は「会社の上がりのポスト」、「サラリーマン人生のゴールの一形態」とよく言われますが、新興企業ではそうではありません。監査役の役割は会社の規模によって違うので、監査役の定義の在り方は変わります。
 ですが、基本的には執行と同じ方向を向き、on the same boatの意識で、進むべきです。でも向かう先に岩礁があるのにまっすぐ進もうとしているなら、そこでは注意しなくてはいけません。
 新興企業では、監査役と社長以下取締役等の年齢が結構開いていることもあるので、そのような場合は考え方や方法が合わないこともあるけれど、無理に合わせるのか、自分で正しいと思う方向に進んで、合わせないのがいいのか、それはそれぞれです。合わないと思ったら辞めるのも、合わせるのも、一つのやり方です。ちなみに、私が任期2年を残してIM社を辞めたのは、辞任勧告を受け入れたからです。
 近年、アメリカ流の資本主義が蔓延し過ぎて、ひたすらお金を儲けること、利益を追求すること、たとえ結果として地球環境に悪影響を及ぼしてもお金を儲けることが良いと思われる向きがあります。でも、新興企業のどうしても利益を出していかなくてはいけない状況の会社で、そのことについて指摘しても仕方がないのですよね。自分が仕事をすることでお金を儲けることよりも、人が喜んでくれることがうれしい、社会に役立っていると思えることがうれしい、そう思っていると、煙たがられることもあります。
 若い元気のある会社にはどんどん伸びていってほしい、でも間違ったことはしてほしくない。この辺りに監査役の役割があるのではないかと思います。
 監査役の仕事は、会計監査でも内部監査でも補いきれない重要なもので、世界に誇れる制度だと思っています。理論面でも実践面でも、一層充実させていただけるとありがたいです。

―ありがとうございました。

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