監査役インタビュー

2019年10月
日本電気株式会社 監査役 川島 勇さん

テーマ:
監査役就任1年目を振り返って-新任監査役等の皆様へのメッセージも込めて-

多くの会員会社におかれましては、6月の株主総会にて、新たに監査役・監査等委員・監査委員・監事の方々が就任されたことと存じます。
本号では、就任2年目を迎えられた先輩監査役として、日本電気株式会社 監査役である川島勇様にインタビューを行い、新任監査役等の方々に向けて、就任1年目を振り返る形で御経験談を御披露いただくとともに、メッセージを頂戴しました。

  • ※こちらでは、インタビューの一部をご紹介いたします。
  • ※全文は月刊監査役700号(2019年10月号)に掲載しております。

監査役御就任時について

―監査役就任の際には、監査役の職務についてどのようなイメージがありましたか。また、御就任の前後で、イメージに変化等はありましたか。
 このようなことを言う人は余りいないかもしれないですが、「監査」という言葉には、少し冷たいイメージがある、「監査する側」、「監査される側」という対立構造のようなイメージがある、という印象が当初はありました。しかし、監査の現場でいろいろ話をしたりして実際に監査を行っていくと、監査とは、いろいろ話をしてそれぞれの実態を理解して、更にはその「人」も理解していくことであり、冷たいイメージとは全然違う、もっと人間味のあるものなのだと思いました。監査の活動の中で、いろいろな話をして経験を積んでいくと、「血の通った監査じゃないといけない」、冷たさとは違う局面で本当は監査を意識しなければならないというイメージに変わっていきました。
 例えば、往査に行って様々な人とお話ししますが、そこでは、当然経営に対する考えや、事業のリスクに対する考え、コンプライアンスの問題等の、オフィシャルな内容に加えて、その人がどういう人なのかということにも私は興味があるのです。話の内容にもよりますが、10分程度話しているとその人がどのような人なのか、人柄が何となく分かると思っています。ですので、かしこまった話だけではなく、ざっくばらんな話もして、往査が終わった後に飲み会に行くなども意識して行っています。そうすると「こんな話が……」とか、「実は……」とか、「こんなことで困っているんだ」とか、公の会議では言いにくかったような話が出てくるのです。
 また、現場の往査の際には、経営幹部だけとの飲み会も開きますが、なるべく経営幹部の部下の人たちとも一緒に飲み会を開くようにして、そこの責任者の人が、その組織の中で、どのように部下の人たちから言われているかを聞いています。私の横に責任者の部下がいて、部下が責任者の顔色を見ながらしゃべるのか、責任者を余り気にせずしゃべるのか、などによっても組織全体の雰囲気が分かりますよね。だからなるべく、そこの責任者とその組織の何名かと一緒に、お酒を飲みながらいろいろな話をして、「人」を理解するようにしています。こうしてみると、監査って、すごく人間味のある世界で、冷たい印象の「監査」を言葉どおりにやっていてはいけないのだな、と思うようになりました。
 先日もある子会社に行って、いろいろと経営の話をしたり、開発の現場を見せてもらったりして、最新の技術はどのようになっているのかを教えてもらいました。実は今この会社は業績が悪くて苦しんでいるのですが、ここの会社の人たちは将来を見据えて積極的に新事業の開拓に取り組んでいました。監査終了後は、社長や部下の方々とも一緒に飲みに行ったのですが、周りの人間が明るくて、これならきっと大丈夫かな、などと思いながら往査から帰ってきました。
 私は思うのですが、監査役が往査のときに経営者に、「コンプライアンス上の問題なんて起こしていないだろうね」と聞いたところで、「実はやっています」などと言う人間はいるはずがありません。大抵は「こういうことをやっていますから、大丈夫です」と言うと思うのですが、一方で、部下の方からの話を聞く中で経営層と部下の方々の距離感が余りに離れていたりすると、正直大丈夫かと心配になります。監査の場は、人と人との真剣勝負の場。そのようなことを今は意識しています。

1年間の監査活動について

―1年間監査役として職務に携わってきた御感想をお願いします。
 まず戸惑った点として、私はCFOとして執行側にいたので、自分の意識を執行側から監査役側に切り替えるのに戸惑いがありました。頭では理解できるのですが、いざ往査の場や会議の場になってしまうと、自分の言っていることがCFOとしての発言の延長のようになってしまって、まずいとよく反省したものです。やはり常に「監査役とは何か」というところを意識して、事業の状況を理解した上で、経営者の方がどうリスクマネジメントをしているのかに対してもっとフォーカスするような聞き方をするようシフトしていきました。まだまだ不十分なのですが、自分は監査役の視点で物を言わなければいけない、だからこそ「監査役とは何か」ということを常に考えて、その視点を意識して、話を聞き発言をするように切り替えていきました。

―では創意工夫した点は何かありましたか。
 私は往査に行くときに、先ほどの「人間対人間の関係」という意味で、血の通った監査、双方向の監査というものを意識しています。私も往査先の相手の状況をよく理解してから往査に行きます。そうすると往査先特有の問題というものが見えてきて、それを事前に「こういうことが聞きたいのです」と相手に投げかけておいて、監査の中で回答をもらうようにしました。
 往査に行って何か特別なアクションをお願いするときには、往査が終わった後にフィードバックレターという文書を送付して、「こういうところが特に気になったのでもう少し考えてもらいたい」、又は「対応してもらいたい」と伝えています。一方で、その部門が実はこういうことで困っている、これは本社に伝えてほしい、ということが見つかることもあります。その場合は、戻った後、担当部門の人を呼んで状況を説明して、「こういう話題があったのだけど、ちょっと問題かどうか調べてみてくれないか」と聞いたりします。指示命令系統で指示はできないのですが、私はこれを「気付き」、「ささやき」と呼んでいます。先ほど言った「双方向の監査」とはこのようなことなのですが、課題に対する認識を投げかけると同時に課題を受け止めるよう意識しています。
 こういったことは、他の監査役の皆さんも心掛けていらっしゃると思うのですが、分かりやすい言葉にするなら、私はこれを監査に対する予習・復習と思っています。いろいろなことを予習して行くとその場で様々なことが言えるのです。そうして人に気付いてもらう、「物を言う監査役」になるわけです。それから、復習として、往査が終わった後には、その部門が困っていることを他のところに伝えて、その部門を応援してあげたい、見守っていきたいという思いがあります。ですので、「物を言う監査役」と「見守る監査役」ということを、心の中ではイメージして取り組んでいます。
 このような活動は監査役だけでできるものではないので、事前調査等は監査役室のスタッフに頼っており、スタッフが調べてくれた内容の報告を受けて、我々がディスカッションをして、それを前提に監査を実施するというやり方をしています。
 それから、もう一つ私なりに工夫した点があります。先ほども述べたように、私は往査とは、被監査部門との対立関係ではなくて、「人間対人間の関係」だと思っており、そこでの話を聞いて、その中で適法性・妥当性を確認していくプロセスだと思っています。そして、そのポイントは人との会話の中にあるので、ベースはやはり人間関係なのだと思うのです。そこで私が実践したのは、コーチングスキルの習得です。参加した講習会では、「人とどう向き合うか」が大きなテーマとして取り上げられました。コーチングの本質は、人と向き合う中でいろいろなことを進めていく、人に焦点をどう当てていくかということなのですが、監査も実はそういうことなのですよね。ですから私はコーチングスキルの勉強をして、これを監査に活用したい、役立てたいという思いがあります。これは私には非常に役に立っています。結局、監査でもコーチングでもそうなのですが、気付くのはそこにいる本人なのです。その人が気付かないと見えないし、私が話を聞いても分からない、だから、その人自身が何に気付いて、その人自身がどうしたいかということになるのだと思います。そういうところを監査役として後押ししていくのだと私は思っています。

本年新たに就任された監査役等へのメッセージ

―新たに監査役等に就任された皆様へメッセージをお願いします。
 私自身は、監査役に就任してすぐの頃には、何をどうしたらいいか分からず、同僚の監査役や監査役室のスタッフにいろいろと教えてもらいながら、監査役業務を進めてきました。最初はいろいろと考えるのですが、考えているだけでは業務は進みませんので、考えながらもまずは形から入ろうとしました。設立したばかりの会社の監査役でない限り、昨年監査役が取り組んだことが残っています。前例に頼らず一から作っていこうとすると大変なことになるので、昨年の形を踏襲して、それをとにかく自分もまずやってみようと思ったのです。そうすると、1年経った今になると監査報告書を作成するときに「あのときのあれはここに影響してきたんだな」ということが見えてきます。ですので、まずは敷かれているレールを進む、形から入ってやってみるというのは、現実的なやり方ではないでしょうか。形から入って本質をつかむということです。
 また、監査役協会の「監査役監査基準」をよく読まれると良いと思います。そして、「監査役とは何か」ということを、自分なりに(ここがすごく重要です)問い続けて、自分なりのイメージを持つべきだと思います。自分の中で監査役像を確立していき、それに見合うよう活動をしていってはどうかと思います。
 私にとっては「行動する監査役」というのが理想で、現場重視で歩き回って、物をきちんと言って、言った後は見守ってあげるというイメージを持っています。新任の皆さんも何かそのような自分に合ったイメージをお持ちになれば良いのではと思います。
 とにかく1年目は知識を習得することが重要です。そして、その目的は「自分なりの監査役像を持つ」ということ。これが大事なポイントだと私は思います。
 私も1年間様々な研修を受けてきて、研修を受けたときは多くの情報量があって深く分からないこともあるのですが、1年経って自分がいろいろなことを経験して、1年前に受けた研修の資料をもう1回見返すと、ものすごく鮮明になって、その内容がよく分かるのです。ですので、資料はきちんととっておいて、1年経ってからそれを見返すことをお勧めします。1年経てば、鮮明になる。私も今正にそのような経験をしています。
 最後に、一つだけ言いたいのは、健康に留意していただきたいということです。実は私は、お恥ずかしい話ではありますがあるとき体調を壊してしまい、往査に行けなくなってしまったことがありました。そうすると、スケジュールも全部狂ってしまい、相手先にもすごく迷惑を掛けることになります。監査役が健康を害したとなると本当に影響が大きいので、監査役に就任したら、今まで以上に健康には留意して過ごしてください。ちなみに私はその後、毎朝5分、ラジオ体操をするようにしています。ラジオ体操をすると汗をかきますが、朝やると頭がすっきりして、その日一日調子が良くなりますよ。
 くれぐれも健康に留意して、監査役の業務に取り組んでいただければと思います。
―ありがとうございました。

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