監査役インタビュー

2018年9月
株式会社カヤック 監査等委員 阿部 由里さん

テーマ:
株式会社カヤックにおける監査活動~株主総会対応を中心に~

阿部由里様は、投資信託委託業、証券業等を経て株式会社カヤックに入社され、後に同社の監査役に就任されました。会社の機関変更に伴い、現在は監査等委員をお務めになられています。株式会社カヤックは、革新的かつ前衛的なIT 企業として知られており、自らを「面白法人」と称していらっしゃいます。ここには、「1.まずは、自分たちが面白がろう。2.つぎに、周囲からも面白い人と言われよう。3.そして、誰かの人生を面白くしよう。」という思いが込められているとのことです。このようなお会社であることから、株主総会の運営もまた非常に個性的です。本インタビューでは、阿部様から株主総会対応を中心に、お話を伺いました。

  • ※こちらでは、インタビューの一部をご紹介いたします。
  • ※全文は月刊監査役686号(2018年9月号)に掲載しております。

株主総会対応について

―御社の株主総会対応について、御紹介ください。まず、総会の開催場所がお寺ということで、大変ユニークだと思いますが、その理由を教えていただけますか。
 株主総会を開催した鎌倉の建長寺は、由緒あるお寺でありながら先端的なことを受け入れる文化があり、歴史的にも大事な局面で静かに物事を考えるのに適した場所、優れた相談相手がいた場所(元寇など国の命運のかかった局面で、北条時宗を始めとする幕府の時の権力者が建長寺を訪ね、進むべき方向を老師に相談したと言われています。)です。この建長寺という静かな空間で、心を平安にしながら株主の皆さまと一緒にカヤックの行く末を考えたい、との理由から、上場してからの過去4回の総会は建長寺で開催させていただいています。上場前は社内の会議室などで開催していたのですが、上場を機に、普段から御住職様とのつながりもあり、こちらで開催しています。
 また、建長寺は自然が豊かで、鎌倉を象徴するような場所です。当社は「鎌倉資本主義」を掲げており、地域活性化を目指して、鎌倉を拠点として企業活動を行う企業の共同体「カマコン」にも参加しています。このような当社の在り方が、株主総会の会場の選定にもつながっています。一方、今のところは収容人数にも余裕がありますが、今後参加人数がもっと増えたら、別の開催場所を検討しなければいけないとも考えています。

―総会の準備として、どのようなことが社内で行われたのでしょうか。その中で、特に阿部様が注力したこととは何でしょうか。
 社内で管理部門のメンバーから総会チームが編成され、キックオフミーティングをしたのが昨年12月25日でした。そこで、総会のゴールについてブレーンストーミング(Brainstorming、以下、「ブレスト」という。)が行われ、「株式を持っているだけではなく、会社の経営に参加し、一緒にアイデアを考え、一緒に会社を育てていく『つくる株主』になっていただくこと」となりました。年明け以降定例ミーティングが開かれ、社内のコミュニケーションツールも使って、企画の検討、役割分担、各種印刷物の準備、当日投影するスライドやシナリオの準備、会場機材確認などが行われました。私はミーティングに参加して、見守る感じでした。そのほか、当日のスライドや進行シナリオの確認、それらについて気付いた点があれば伝えることもありました。あとは監査役に対する質問があった場合の想定問答について、他社の総会への出席のほか、日本監査役協会から公表されている資料や他社の監査役の御経験を参考にしながら準備しました。監査等委員会設置会社への移行について質問があるかと思いましたが、結局ありませんでした。
 リハーサルは前日が会場設営、テクニカルリハーサル、おおまかな流れの確認などで、当日は本番前に役員全員も参加して全体の流れや動作の確認などを行いました。総会全般の準備は、基本的には総会チームのメンバーが進めています。多岐にわたる準備を進め、円滑に総会を運営する総会チームのメンバーに心から感謝しています。
 株主総会は資本主義システム・株式会社制度の根幹であると考えています。ですので、会社にとってとても大切な場であり、会社を表現できる良い機会であると思います。実は株主総会が結構好きで、前職の会社でも事務局をしたり、今も一株主として他社の株主総会に参加したりしています。各社の取組や株主からのいろいろな質問はとても興味深いです。

―当日はどのようなスケジュールで進行したのでしょうか。
 当日の流れを簡単に説明すると、以下のとおりとなります。
・事業説明会
・ブレスト体験
・株主総会
・おまけ株主総会
 過去には「坐禅体験」や「VR体験」などもありましたが、今回はこのような形になりました。
 まずは「事業説明会」で、財務部長より当社グループ全体の事業の概要や強みについて説明をしました。
 その次に行ったのが、「ブレスト体験」です。当社では、ブレストを社内の文化として大事にしています。ブレストを通じて、自分の意見を述べたり、他者の意見に乗っかったりしているうちに、創造的なアイデアを生み出すことができるようになると考えています。社内の人間がお互いを知るようにもなります。ブレストで出された良いアイデアは、どんどん生かすようにしています。当社では年2回、経営理念の確認や文化共有のため、社員が日常業務から離れ、社長になったつもりで考える「ぜんいん社長合宿」を行っており、そこでもずっとブレストを行っています。会社の課題がお題になることが多いので、一人一人がその課題を「自分ごと化」して考え、いろいろなアイデアを出します。
 当社では、世の中を一緒に「面白くする」仲間になっていただきたいとの思いから、株主の皆さまを「面白株主」とお呼びしています。当社で大事にしているブレスト文化を是非株主の皆さまとも共有したいと思い、株主総会の前にブレストを体験していただく時間を設けました。

阿部様が監査等委員として心掛けていることや、取り組んでいることについて、教えてください。

―御社のような、大変ユニークで前衛的なお会社で阿部様が監査役、監査等委員として活動するに当たって、心掛けていることや、特に意識して取り組んでいることなど、御自由に御披露いただけますか。
 監査役会のときもそうでしたが監査等委員会では、取締役、執行役員、管理部門の各部長などに、担当業務を中心とした現状の課題と今後の方向などについて、ヒアリングをする時間を設けています。社外の監査等委員のお二人にとっては、当社グループの各事業やそれぞれの責任者の人となりを理解していただく機会になっていると思います。ヒアリングを受ける側にとっても、この場で質問を受けたり意見交換したりすることで、改めて会社や事業について考える機会になっているとも聞いています。
 普段は社内の会議などに出ていて、何か調べたりすることがあれば管理部門の皆さんの力をお借りしています。内部監査担当者と一緒に事業部やグループ会社のヒアリングをする機会もあるので、その際に現場の話を聞いて、当社の事業について改めて理解を深めることもあります。
 世の中の流れ、例えば企業の在り方や景気、社会の動向等について知っておくことも大切だと思います。現場の事業については、現場のメンバーが一番考えているので、事業についてはむしろ第三者目線というかユーザー目線をもって見ています。現場のメンバーが事業に集中している分、外のことを知っておくことも大事だと思っています。会計監査人の担当の先生方とも折に触れてお話をしています。監査役協会の部会や研修に参加したり、そこでのネットワークで仲良くなった監査役等の方々と情報交換をしたりもしています。
 自分がやる部分もありますが、一人ではできないことも多いので、忙しい中助けてくださる社内外の皆さまに感謝しています。私のような生来のんびり屋がこれまで何とか務められているのは、元々オープンでフラットな組織であり、素直で良い人が集まった会社だからだと思います。
 余談ですが、当社のユニークな取組の一つとして、毎朝9:29 にラジオ体操の音楽が流れます。ヨコハマ展望台オフィスに来る前は、鎌倉のほか恵比寿にも拠点があったのですが、拠点を集約するに当たり「くっつく」という語呂で、9:29になりました(笑)。以前は普通のラジオ体操の音楽だったのですが、そのうち編曲が加えられ、ラップ調の部分などもあります。体操をするかどうかは強制ではなく、やっているのは3割ぐらいです。意外とアナログなことですが身体性も重要という人もいますし、やるのもやらないのもありなのが自由な感じで良いところだと思います。私は日頃運動不足がちなので結構やっています(笑)。ラジオ体操やその後の各事業部の朝会の雰囲気には、事業部の勢いが表れるような気もします。

―そのほか、御社に対する思いなど、お聞かせいただけますでしょうか。
 他に類を見ないユニークな会社なので、これからも「面白法人」であり続け、新しいことに挑戦し、未来をつくっていけると良いと思います。芸術系、理系、人文科学系など多様なバックグラウンドを持ち、楽しみながらあるいはストイックに面白さを追求する人が集まっていて、植物で言えば成長点のような、クリエイティブでイノベーションの生まれやすい環境だと思います。
 当社の大切にしている言葉にもう一つ「『何をするか』より『誰とするか』」というものがあります。「何をするか」が重要だと思っていた時期もありましたが、誰と出会うか、誰と生きるかで人生は大きく変わります。「誰とするか」は、伝統的な血縁や地縁が相対的に薄れる中で、新たな縁を結び、コミュニティ(居場所)をどうつくるかという文脈でも、本当に重要だと思います。
 日本社会全体を見渡すとどこか閉塞感があるように感じられますが、当社では若い社員が活躍していて、入社してから数年で事業部やチームを実質的に率いていたり、子育てをしながら働いていたりする人もたくさんいます。経営理念の「つくる人を増やす」を心にとどめ、健康で自由で希望とわくわく感を持って、働く人もお客様も世の中ももっと「面白くする」ことに貢献できれば良いと思います。いつの時代もそうですが、これからも世界も日本も厳しい時期はあるかもしれませんが、今は選択肢も多く多様な生き方があり得ますので、可能性を信じていろいろ挑戦すれば良いと思います。
 一風変わっておりますが、当社の株主総会を始めとする株主とのコミュニケーションを面白いと感じていただいたり、何か参考にしていただける部分があったりしましたら幸いです。お話ししながら今までお世話になった方々のお顔がたくさん浮かんできました。心から感謝の意を表して結びとさせていただきたいと思います。
―ありがとうございました。

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