対談・座談会

◆近時の監査役等をめぐる状況と日本監査役協会の在り方(日本監査役協会正副会長座談会)

2019年2月7日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。以下に一部を抜粋してご紹介いたします。速記録全文につきましては、『月刊監査役』2019年4月号(No.694)をご覧ください。

[出席者]<公益社団法人日本監査役協会>
会 長 岡田 譲治(三井物産株式会社 常勤監査役)
副会長 藤井 秀則(東海旅客鉄道株式会社 常勤監査役)
副会長 安原 裕文(パナソニック株式会社 常任監査役)
副会長 中村 豊明(株式会社日立製作所 取締役監査委員)
副会長 竹内  豊(新日鐵住金株式会社 常任監査役)
副会長 井手 明子(日本電信電話株式会社 常勤監査役)
[司 会] 専務理事 永田 雅仁


ESG、SDGsについて
井手:私は10数年前にCSR推進の仕事を担当していたのですが、当時と今とで、企業のこのことに対する関心、取組が大きく変わったと感じています。以前は、「CSR=社会貢献」と捉える向きが多く、利益の中から一定の割合を寄附する、あるいは、地球環境、社会環境を損ねるようなことは行わない、企業としての義務工程は果たすといった範囲にとどまっていたように思います。
CSR推進担当として、社内の各事業部門の関心を高めるのに苦労をしていた身からすると、現在では、事業活動を通じて社会的課題を解決するCSVの発想やSDGs経営、ESG経営といった言葉が多く語られるようになったことに、ここまで変化するものかと驚いています。
グループ内の子会社に往査に行っても、会社の経営目標とSDGsをリンク付けて説明がされます。ここまで、経営の感度が高まったのは何が影響しているのでしょうか。
中村:CSRと言っていた頃は、事業の成長との関係が薄かったように思いますが、ESGという発想になり持続的成長に必要な要素として投資に結び付けられて、さらにSDGsとなってきました。CSRでは投資はなかなか進みませんでしたが、ESGとなって投資家がその重要性を主張し始めました。
岡田:スチュワードシップ・コードにも盛り込まれましたね。
中村:企業経営者は、ESGが株価に影響すると考えるようになりました。国連や政府、経団連がSDGsの重要性を説き、環境が徐々に整ってきたのでしょうね。SDGsは企業の経営目標に組み込まれるようになってきたと感じます。
安原:以前、経営品質が盛んに言われたことがありましたが、今はどうでしょうか。同様に現在のSDGsとは、一過性のものなのか、本当に企業に求められるステージが変わってきたのか、私個人は判断しかねています。SDGsの個々の要素には業績と相反するものもあり、業績がさえなくなってくるとなると、いつの間にかトーンダウンするようなものであってはならないと思いますが。
岡田:SDGsについては、17項目もあり、ある意味働き方改革もその内容に入ると思います。
安原:投資家も今、盛んにその重要性を主張していますが、本当にそれをもって、きちんと評価している投資家がどれほどいるのかというと、私も投資家から話を聞くことはあるのですが、プライオリティーは圧倒的に業績という感じはします。
岡田:多分、SDGsやESGは、統合報告書等、まず開示資料に盛り込まれていること。記載がなければ駄目だけど、記載があったら一応は良しという評価が大半だと思います。
安原:定性・定量の企業のありのままの姿を統合報告に求めることは全く正しいと思います。ただ投資家の目からすれば、業績が厳しくなってくると、いつの間にか、SDGs って何だっけ、となってしまう懸念があります。業績は必要条件であり、かつSDGs への取組があって十分条件を満たすということではあるのでしょうが。
岡田:会社の利益が低迷していても、SDGsにはすごくよく取り組んでいるぞと言っても、投資家は株を買ってくれないですよね。
中村:日本企業は、ESG投資の分野では少し遅れていますが、海外では、早くから関連データを指標化し信託証券等として販売していますよね。
岡田:パッシブ投資の中で、ESGの商品が含まれていたら購入すると投資家が決めてしまっているから、必ずそれは買われるわけです。
安原:基準が決まっていて、形式的に運用されているのですよね。
中村:欧米は結構進んでいます。Climate Action(クライメイト・アクション)100+等の取組が進められたときも、そこに日本はなかなか入れませんでした。
岡田:資源事業の例では、石炭が問題視されます。機械的に評価すれば、一般炭、電力向けの石炭はCO2排出の問題で×なのです。では、利益が上がっている石炭事業でも売却すべきかというと、そこは議論になるところです。
石炭火力発電でも、超々臨界圧発電のような発電効率の良い手法もあるのですが、ある海外の会社は石炭火力発電事業を全部売却してしまいました。ESGを意識して、その事業から徹底するのであれば、投資家も株を買ってくれるのです。監査役等として、また、社外取締役もESGについて意見を言いますが、収益事業から撤退すべきかというと、判断は難しいところです。
私が監査役を務める会社では、社外取締役に、英豪資源大手で最高経営責任者を務めた者がいます。彼はESGに関して、非常に高い感度を持っています。基準となる物差しを決めたらブレません。
それぐらいでないと、ESGでも、SDGsでも、説得力がないのでしょう。日本の企業では、一応、旗印に上げるけれども、徹底度合いは相対的に低いと思います。そこで、大切なのは収益ではなく、撤退すべきだと言えるとしたら、社外取締役と監査役等ではないかと思います。一方で、自分自身が全うできているかというとまだ十分ではないと思っています。
中村:グローバル企業での経営経験を持つ人材を社外取締役に入れると変わりますね。

企業統治改革の現状と今後の方向
社外取締役の役割

永田:続いて、企業統治改革の現状について、お話しいただきたいと思います。
岡田:各社で進んでいる社外取締役の導入について、社外者の導入、ダイバーシティの確保もそうですが、取締役に女性を入れる、外国人を入れるとして、どこの会社も数合わせを一生懸命やっているのですが、そのようなレベルではまだまだなのでしょう。本当にガバナンスを理解している経営者クラス、トップクラスの人物を入れないと、それは機能しないと思いますね。
藤井:だけど、そのようなトップクラスの人物を呼べるくらい力のある会社というのは、限られていますね。
中村:例えば、パフォーマンスの悪い事業について経営判断する場合、継続も撤退も何を基準にして考えるのかというと、経済合理性だと思います。
ずっと取り組んできた事業について継続の可否を決めなければいけない場合、事業のポートフォリオとしてどれを選ぶかという経済合理性の観点から、社外取締役の方々は、取締役会で真剣に議論し、助言しています。
安原:社外取締役が機能を発揮するのは、やはり、指名委員会ですよね。
藤井:指名委員会が、このような人をしっかりとした基準で選んでいる、という明確なルールがあって、報酬もこのように設定する、という客観的な基準がないといけませんね。
中村:当社では、指名委員を務めている社外取締役には、社長候補者のメンターもやっていただいています。
岡田:社長候補者のいろいろな話を聞いていただくのですね。
永田:実は協会の委員会活動の中で、指名委員の方に過去にインタビューさせていただきました。すごくアグレッシブに取り組んでいる会社もあります。
指名委員会等設置会社でも、そういう会社と、例えば、指名委員会にしろ、報酬委員会にしろ、執行がやったものをレビューし、おかしなプロセスを踏んでいないかを見る、したがって、来たものを見るという、受け身的な会社とがあります。
中村:当社では社外取締役は経営経験に基づいて、執行への助言を活発に行ってくれています。
赤字や低収益事業について、随分切り込んでくれました。しかし、赤字の事業を全部やめるべきというのではありません。無駄な金が出ていることが問題であり、この金で将来どのぐらいリターンがあるのかに基づいて、成長できるものに集中するべきという視点で議論が多くなされています。
岡田:そのようなことは、経営者の経験があるから言えるのですよね。

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