対談・座談会

◆協会活動と近時の企業を取り巻く動向―ウィズコロナ、KAMや開示の進展、サステナビリティ、従業員エンゲージメントに触れて―(日本監査役協会正副会長座談会)

2023年3月2日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。以下に一部を抜粋してご紹介いたします。速記録全文につきましては、『月刊監査役』2023年5月号(No.749)をご覧ください。

[出席者]<公益社団法人日本監査役協会>
会 長 松野 正人(日鉄エンジニアリング株式会社 監査役)
副会長 富永 俊秀(パナソニック ホールディングス株式会社 常任監査役)
副会長 加藤 治彦(トヨタ自動車株式会社 常勤監査役)
副会長 関  秀明(株式会社日立製作所 監査委員)
副会長 塩谷 公朗(三井物産株式会社 常勤監査役)
[司 会] 専務理事 後藤 敏文


従業員のエンゲージメント、モチベーションの向上
後藤:サステナビリティの中で特に今、人的資本管理が注目されていますが、日本は海外の会社と比べると従業員のエンゲージメントが低い、モチベーションが低いという実態があります。これは各国の国民性等もあって、単純に比較できないという意見もあるのですが、日本人の働く人たちのエンゲージメントやモチベーションが低いという結果が、不祥事等の背景になっているのかもしれないという指摘もあり、働く人たちの意欲を高める、エンゲージメントを高めるという点について、何か御意見、御感想があればお聞きしたいと思います。
関 :当社は、海外での売上高がグループ全体の6割程度を占めており、従業員も外国籍の方の方が多いのが現状です。そして当社でも毎年、「Hitachi Insights」という従業員サーベイを実施しています。ここでは、どうすれば従業員のモチベーションを上げられるのかが、平常の課題にも取り上げられるのですが、日本人従業員と外国籍の従業員との間のモチベーションの高さに、10ポイント弱の差があって、その差が縮まる傾向はないというのが現状です。世の中の動きを見てみても、大体日本人のモチベーションの方が低いというのが標準です。ここでは、余り自分を高く評価しない日本人の文化みたいなものが影響しているとして、そのバイアスを少し差し引いたとしても、やはり世界的に見て日本人のモチベーションが低いという現実があります。
これに対して、当社もいろいろと取り組んではみるのですが、なかなかヒットしないのです。なぜヒットしないのかに関して、私の一つの仮説を述べたいと思います。日本の従業員は昔から非常にレベルが高くて、そして末端の人までが会社のことを考えながらいろいろな提案をし、そしてマネジメント側もそれを受け入れて、よく言う日本の現場の改善みたいなものが根付いていたと思います。我が社は昔、製造業中心でしたが、少しずつ製造業からソフト産業の方に会社の軸を動かしていきました。そうすると、現場での末端の改善よりも、戦略を重視する欧米流の考え方が入ってきて、上位下達になっていった、このような経緯があるのではないかと思っています。従業員自身が、自分がやっていることが一体会社のどこに役立っているのか、これをやれば会社に貢献できるのかについて考えるのではなく、ただ会社に言われたことをやっている、作業者の一員になっているという点があるのではないかと思います。そのような欧米流の、上から戦略を立てて、そしてこのとおりに仕事をするという進め方では、従業員はただ指示されたことをやるだけとなり、だんだんモチベーションが下がってきて、イノベーションも生まれなくなってきたのではないでしょうか。
ですから、今、従業員の賃金を上げようとしていますが、果たして賃金を上げれば済む問題なのかと疑問に思っています。もちろん欧米流のやり方で上位下達でも、そこにインセンティブを付けるという設計はされていたと思いますが、日本の社会の中では、少々のインセンティブはあっても、大きな差は付けられないので、余りインセンティブを付与してこなかったと私自身は思っています。
そのような非常に地道で優秀な現場の方々が、自分のやりがいを持てなくなってきているこの現状を大きく変えていかないと、品質不良も起こるし、イノベーションも起こらないのではないかと、私自身は考えています。これらがめぐりめぐって、不祥事等を連発しているのではないか、製造業だけではなく、官庁でも、サービス業でも不祥事は起こり、日本人のモラルが低下してきていると世の中では言われていますが、もう一度立て直していかないと、日本の復活も難しいのではないかと思いますので、ここで問題提起をさせていただきました。
塩谷:従業員のエンゲージメントについては、日本と海外の仕事に対する考え方の違い、人材の流動性の違いに、一つ理由があるような気がいたします。従業員がスキルアップをして、ジョブホッピングとまでは言いませんが、そのスキルをいかしてくれる職場を求め続けていく、そういう人たちが相対的に多い社会においては、企業そのものの努力とは関係ないところで、一定のモチベーションの維持を下支えするものがあるのかもしれないと思います。当社でも、エンゲージメントサーベイを毎年やっていますが、相対的に海外の方が少し高く出る状況で、その原因にしっかりとたどり着けているわけではないですが、個人的にはそのような背景もあるのかなと思っています。
従業員のエンゲージメント、モチベーションを上げていくための施策を展開するためには、調査結果をしっかりと活用していくことが重要かと思います。会社として、組織単位で分析をし、どのような施策が必要か、あるいは調査の結果、マネジメントに対する不満が出ているとすれば、任用・登用においても考慮に入れるなど、様々に調査結果を活用しています。360度評価や、その他の様々なアンケート等も、いろいろな施策を検討する際に参考にしています。
コンプライアンスとの関係性では、エンゲージメントの低さが不祥事の原因の一つになっている可能性は否定できないと思います。当社でも過去にコンプライアンス上の問題があり、その後、改めて会社のミッションやビジョンを策定し、「コンプラなくして仕事なし」という活動を続けてきていますし、最近ではインテグリティという言葉をとても大切にしながら、過去に不祥事が発生した月をインテグリティ月間として、過去を振り返り、改めて我々としてどうすべきかを、全社を挙げて、グループ会社各社、各事業本部が自発的に考え、取り組んでいます。その中で、ある事業本部の良い取組を横の事業本部がまねをして成果が出ている等のエピソードを取り上げるなどしており、周囲の意識を高めることが、自分のそして自分の家族にも好影響をもたらすということを実感してもらうよう取り組んでいます。
これは終わることのない活動ですので、まだまだ当社としても継続して取り組む必要がありますが、監査役等としては、それぞれの取組をしっかりとモニターしながら、それが結果に結び付いているのかも含めて、往査のたびにその話を必ずして、現場の状況をヒアリングしながら、間接的に働き掛けています。
富永:当社もグループ各社の意識・実態調査を毎年行い、それぞれの会社の取締役会で、それら分析結果を共有する場面があります。
当該調査結果については、各階層であったり、各職場によって、特徴があると思います。特に日本と海外を分けて考えると、やはり海外の子会社の方が従業員エンゲージメントは高いという事実があります。特に、中国が非常に高いのですが、これはその国の特性かもしれません。日本の会社であっても、非常に従業員エンゲージメントが高い会社があるというのも事実です。一時、私がある事業の責任者をしていたときの話ですが、こんな会社になりたいということを具体的に示さないと従業員には理解してもらえないので、私が理想とする会社を特定して、従業員に呼び掛けていた時期があります。その会社も最初から私が目標とするような会社だったわけではなく、日々の活動の中で成長を遂げたわけです。その成長の過程を追っていくと、いろいろなものが見えてきます。経営者自身がまず従業員に寄り添うことからスタートし、これが、それぞれの従業員の心にすっと入り、長い期間を経て、今の姿になったのです。当たり前のことですが、誰かが困っていたら誰かが助ける会社へと進化を遂げたのです。このことを自分たちの会社の現場に置き換えてみると、結構難しいことだと感じます。どうしても自分たちの仕事にはテリトリーがあって、自ら壁を作ってしまいがちです。しかし、目指す会社には、誰かが隣で困っていたらそれを助ける文化が当たり前に存在しているのです。逆に我々の状況を見たら「えっ、どうして助けないんですか」という疑問が生まれます。「なぜ皆さんは助け合うのですか」、と誰に聞いてもその答えは同じです。何がその原点になっているのか。それは、自分自身で物事を考えて動く文化であり、それを誰もとがめたりしないということです。上司の指示を待つことなく、自らが主体的に行動することの大切さを改めて感じています。
また、焦点をミドルマネジメント層に当てて考えてみると、今、若い人たちが管理職になりたがらないと言われています。なぜなら上司の姿を見ているからだと思います。多くの仕事がミドル層に集まり、忙し過ぎて考える暇がなくなっている状況です。その結果として、部下に仕事を丸投げして終わりということが日常的に起こっているのではないかと思うのです。このミドル層のモチベーションを上げるべく、いかに個々の仕事を減らすかを考えることが、一つの方策だと感じています。上手く仕事が回っている部門は、そのミドル層が部下たちをきちんと見て、部下に考えさせながらも最後にはフォローする形になっているはずです。時間は掛かりますが、それらを一つ一つ積み重ねていくことが大事なのではないかと日常的な仕事の中で感じています。
コンプライアンスの問題は、従業員のエンゲージメントが間接的に関わっている部分が多少あると思うのですが、起こった事象の本質を掘り下げていくと、別の真因に行き着くことも多いと思います。それは、職場の風土や、ものづくりに対する自信や文化等であると感じています。
加藤:私もこの問題については、日本人特有の問題や会社組織の在り方、例えば、組織の中でこう働くというよりは、自分の能力を最大限にしてジョブリクエストに応えていく、そして自分の力を発揮するという社会と、日本のような、会社組織で取り組む、という社会では相違があると思います。不祥事との関係では、監査役等として、なぜこういうことが非常に真面目な会社で起こるのか、それ自体が深刻なことだと思っています。不祥事の現場では、本音で「これは無理です」と言えるかどうかが重要で、例えば一定の期間のうちにその計画を達成しなくてはいけないけれど、どうしても時間上の問題があったときに、上司と本音で「いや、もうこれはどうしても時間的に無理なんで、もう少し時間をください」という会話が成り立たない、絶対にやれと言われる中でついつい無理をして、その結果、不祥事が発生するという事例が散見されます。
職場環境が厳しく、オーバーワークで処理することが多いとなると、本来ならギブアップして、経営がそのような職場環境を変えていかなければいけないのですが、それができない場合には、やはりそこに断絶があって、風通しの悪さという問題があるのです。エンゲージメント、従業員のやる気の問題として、職場の上司が分かってくれない、だからだんだんやる気がなくなっていくというのも、関係があると思いますし、従業員の働きやすさのためには、上司や経営層による働くときの寄り添いが必要なのであり、そのように有機的に従業員の働きやすさを上手くマネージしていく、ということが大事なのだと思います。
もし監査役等がこの問題に取り組んでいくとすれば、職場環境、職場の働き方が従業員にとって合理的で有効なものになっているか、人事制度だけではなくて、その具体的な日々の職場での有機的な運営がなされているかを見ていくことだと思います。
実は多くの事柄が、ハラスメントの問題にも絡んでくるのですよね。問題があって、その一環でハラスメントが起きてくる、アウトプットだけが評価の対象になっていて、すさんだ職場になってしまうと、不正が内在していても気付かず業務が進んでしまうため、監査役等は職場が上手く運営されているのかを見ていくことが、非常に重要だと思うのです。また、監査役等が直接話を聞く際には、ミドル層のマネジメントや現場の若い人も含めて、現場へ行って雰囲気を見ることも、非常に大事だと感じています。
松野:かつては国際的にも高位にあったと思われる日本人のエンゲージメントの低下の問題は、かつて人事、総務の第一線に身を置いていた者としては正直残念に思います。
これをどうするかは、企業としての課題であると同時に、社会的な仕組み、制度も含めて欧米流のものを取り入れるかといったことを含めた大きな議論になると思いますが、私たちにできることは、そうした議論の動向も踏まえて飽くまでも各社のマネジメントの問題として捉えることだと思います。
皆様が御指摘のように、職場の中で同僚、上司・部下が意思疎通する際には、コミュニケーションが上下左右の双方向で行われるために会社としてどのようなマネジメントをするのが良いのか、という観点で考える必要があると思います。職場ごとにそれぞれ異なる課題がある中で、各職場に根ざした取組が行われていると思いますので、我々監査役等としては、それが実効的になされているかをきちんと見ていく、そして、マネジメントとしてどのような課題があるのかを、監査役等の立場から考えていくことになると思います。

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