インタビュー

2026年4月
キリンホールディングス株式会社
常勤監査役  石倉  徹さん
常務執行役員 永嶋 一史さん
常務執行役員 高岡 宏明さん
経営企画部  木村 弥由さん

テーマ:
AI役員がもたらす価値とは
~よきパートナーとなる日を目指して

今回は、各企業において大きな課題となっているAI活用の一つの事例として、キリンホールディングス株式会社の皆様から、同社のAI役員「CoreMate(コアメイト)」について、導入の背景や活用の実態、導入によって得られた成果や課題についてお話を伺いました。

  • ※本稿は2026年4月13日に実施したインタビューの内容をまとめたものです。
  • ※こちらでは、インタビューの一部をご紹介いたします。
  • ※全文は月刊監査役790号(2026年7月号)に掲載しております。

1.AI役員「CoreMate(コアメイト)」の概要

―まず、CoreMateについて教えてください。
高岡氏 CoreMateは、当社の経営戦略会議における経営陣の意思決定を支える、言わば「右腕」となることを目指して開発されました。多様な視点の提示により議論を深め、より質の高い意思決定につなげることを目的としています。
開発に当たっては、過去10年分の当社の取締役会及びグループ経営戦略会議の議事録データや各種社内資料のほかに外部情報も読み込ませて、多様な専門性と異なる視点を持つ12人の独自の人格を構築しました。CoreMateから提示される多角的な論点により、意思決定の質とスピードが向上し、当社のイノベーションを更に加速させることを期待しています。

―CoreMate導入の背景についてお聞かせください。
木村氏 近年、市場環境の変化や技術革新の進展により、経営判断に必要とされる情報量や知識は一層多様化しており、意思決定の難易度は高まっていると感じています。当社においても、複雑化する経営環境の中で、迅速かつ的確な判断が求められており、こうした課題をAIの活用によって解決することを目指してきました。
その一環として、2035年の姿を見据えたDX戦略「KIRIN Digital Vision2035」を策定し、全社的にデジタル基盤の強化に取り組んでいます。こうした取組を進める中で、経営戦略会議の議論の質向上にAIを活用できないかと思い、デジタル部門の担当者と一緒にCoreMateを発案しました。
約2か月の開発期間を経て、2025年8月にCoreMateを本格導入しています。構想段階でCoreMateの狙いや活用イメージを社長に説明したところ、非常に前向きな反応をもらうことができ、それが導入を後押しする要因となったと思います。

2.CoreMateの利用状況について

―導入当時を振り返って、率直な感想や印象をお聞かせください。
高岡氏 導入当初は、的外れな質問が出てくるなど、70点程度の完成度といった印象で、もう少し時間が必要かなと思っていました。しかし、時間をかけて育成すれば活用できるものになるのではないかという期待もしながら使っていました。
私は、経営戦略会議の司会進行を担当していますが、CoreMateの意見をどのように取り上げればよいのか、議事を進行しながら、いつ、どのような形で会議に組み込めばよいのか、最初のうちは少し難しかったです。
永嶋氏 最初は、どのように活用すればよいのか手探りの状態でした。使い始めた頃のCoreMateのコメントは抽象度が高く、議案に対する何らかの課題がありそうという示唆は得られるものの、具体的にどのような課題があるのかという点についてはやや弱いと感じていました。しかし最近では、次第に内容が具体化し、より実践的なアウトプットが得られるようになってきていると感じております。
また、CoreMateは、当社の社外役員の過去の発言内容を学習データとして取り込んでいるため、それらの役員の背景や経験を踏まえてコメントを理解することができる点が、大きな強みだと感じています。
石倉氏 導入当初は各コメントに参照した役員の個人名を表示していたため、「この人ならこういう発言をするだろうな」といったリアリティがあり、そこから発想が広がる効果やコメントを身近に感じられるというメリットもありました。一方で、コメントの背景を意識し過ぎてしまう側面もあり、今は匿名として機能(専門性)を表示するように変わっています。
導入時は、会社全体でAI活用の推進やアジャイルな組織への変革について議論が進んでいたこともあり、役員からの反対は特にありませんでした。まずは使ってみる、という前向きな意識の下、比較的スムーズに導入できたと思っています。

―役員の個人名の表示から匿名に変更した経緯をもう少し教えていただけますか。
高岡氏 当初は個人名を出した形で運用していましたが、発言の背景が分かることで、先入観を与えてしまう可能性がありました。一方で、議案によっては、例えば技術分野に詳しい社外役員の発言ということが分かると有益な場面もあり、その点では顕名での利用にも一定の価値があったと感じています。
木村氏 現在は、「財務担当役員」、「法務担当役員」といった形で、専門性を示す形で表示をしています。もちろん裏側のデータには実在する役員の発言内容も含まれているため、まだ特定の役員らしさが感じられるものもあります。
ただしCoreMateは、特定の人格を再現するというよりも、各専門分野におけるプロフェッショナルをつくることが目標です。使い続けることで、人間では到達できない“スーパー人材”を育成したいと思っています。

―導入後の会議の様子の変化や、具体的な効果を実感したことなどをお聞かせください。
永嶋氏 会議中、CoreMateの意見を参照しながら議論を進めることもあり、論点を確認・整理する手段として有用であると感じています。
また、私自身が起案者側だったときは、CoreMateの反応を見ることで、どのような質問が出そうかを事前に予測できたり、提案内容に対して評価してもらえたりするのが有り難かったです。自分では気付かなかった論点に気付かされることもあり、提案の改善ができると思います。
事前に資料を読む際も、CoreMateからの評価と指摘事項を確認することで、重点的に確認すべきポイントが明確になり、その結果、会議全体の質が向上したと感じています。
高岡氏 導入時は70点程度だったと申し上げましたが、半年ほど経過した頃には、CoreMateの意見はもの凄い勢いで改善されていきました。会議後に毎回、木村が参加役員からのフィードバックを受け、それを基にデジタル部門と翌週までに改善・アップデートを行うというサイクルを継続してきた成果だと思います。
また、ファシリテーターとしては使い方が難しいところがありました。当初は会議中にCoreMateの意見を拾い上げる形で運用していましたが、最近では資料配布の段階で、CoreMateの評価やコメントをあらかじめ付した上で共有するようにしています。会議では議案説明の際、CoreMateからの指摘事項に対する起案者としての見解も併せて説明するという流れで運営しており、議論すべき論点にすぐ入れるので、スピード感をもって効果的な議論ができていると思っています。CoreMateは厳しい評価を付けることが多いんですよね(笑)。
石倉氏 CoreMateは、これまでにはない新たな仕組みのため、どのように活用していくかについては現在も試行錯誤を重ねている段階ですが、我々の事前準備の仕方も変わりましたし、活発な議論ができるようになり、会議の質が上がったと感じています。
将来的には経営戦略会議に架空の役員が一人加わったような姿を目指していると聞いていますが、現在はCoreMateの意見を聞き、出席者が取捨選択をする運用で、会議中はやや忙しい感じでしょうか。でも、私たちには思い付かない発想を提示してくれる点や、人間と違って忖度のない意見が示される点は、大きな魅力だと感じています。

―続きは月刊監査役790号(2026年7月号)をご覧ください。

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