2026年2月12日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。以下に一部を抜粋してご紹介いたします。速記録全文につきましては、『月刊監査役』2026年4月号(No.786)をご覧ください。
[出席者]<公益社団法人日本監査役協会>
会 長 山田 龍彦(東海旅客鉄道株式会社 常勤監査役)
副会長 柴垣 貴弘(第一生命ホールディングス株式会社 取締役監査等委員)
副会長 髙橋 香苗(NTT株式会社 取締役監査等委員)
副会長 狭間 一郎(大阪ガス株式会社 取締役監査等委員)
副会長 丹羽 基実(株式会社デンソー 常勤監査役)
[司 会] 専務理事/事務局長 後藤 敏文
1. 2026年の協会活動について
~中期事業計画の策定及び進捗状況を踏まえて
後藤:2026年の日本監査役協会(以下、協会)の活動と監査役等に関わるトピックスについて、協会執行部の考え方をお伝えするため本座談会を実施いたします。
まず、2026年の協会の活動について、協会として初めて策定した中期事業計画の内容や、その進捗状況について山田会長からご紹介いただけますでしょうか。
山田:2025年に公益認定法(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律)が改正され、民間公益活動の一層の活性化を目的として、自律的なガバナンスの強化と透明性の向上が求められると同時に、財務規律も単年度ではなく中長期で判断されることとなりました。
これを受けて協会では、理念に基づき充実した事業を推進するとともに、時代の変化に対応しながら将来に向けて持続可能な運営体制を確立するため、3点の項目を柱として、中期事業計画を策定しました。
① 監査役等が必要な知見を十分に習得し、その職責を十分に果たせるようにすること
② 監査役等の必要性・有用性が広く社会に認知されること
③ 協会組織の安定的な運営を確立すること
基本的には、これまで積み重ねてきた取組を、更に充実させながら継続していくことが中心となります。その上で、新たな取組を行うこととしており、会員が抱える多様な悩みや相談に応えるための相談体制の整備、情報共有をより円滑にする新たな形態の研修の実施、会員数が増加している中小規模法人(以下、SME)向け支援の強化、新たな広報戦略に基づく対外発信の強化、協会がこれまで蓄積してきた多様な調査・研究活動の成果物の有効活用などの各種施策も検討しています。
本計画は開始したばかりですので、今は協会事務局を中心に、正副会長会議や会員の皆様からのご意見を伺いながら、具体的な施策内容を検討している段階です。おおむね順調に検討が進んでおり、中期事業計画の達成に向けた歩みを確実に始めていると考えています。また、この中期事業計画の下で策定された今期の事業計画の重点施策でも次のような内容を掲げています。
まず、制度改正への積極的な提言や、監査役等の活動に資する研究・調査活動の推進です。具体的には、サステナビリティ情報の開示や保証に向けた監査役等の関与の在り方、また会社法改正に関する審議動向の注視などが重要なテーマとなっています。次に、多様なニーズに応える充実した研修の提供です。宿泊型研修や交流会を組み合わせたプログラムなど、会員同士の交流の場としても機能する研修を実施しています。さらに、SMEを対象とした支援施策についても、現在具体的な内容を検討しているところです。そして広報活動の強化では、新たな取組としてSNSを活用した情報発信、マスコミとの関係性の強化など認知度向上に向けた活動を進めています。
後藤:協会活動の事業の一つとして、多くの皆様にご参加いただいている「監査役全国会議」(以下、全国会議)があります。全国会議の企画・立案は、監査役全国会議プロジェクト委員会が担っており、今年の4月は関西支部開設50周年を記念して大阪での開催、10月には熊本での開催を予定しております。当委員会の委員長である柴垣副会長より、今年の全国会議を中心に協会活動についてお話しいただけますでしょうか。
柴垣:山田会長からご説明がありましたが、協会は中期事業計画に沿って活動を進めています。その中で、会員数の拡大に向けた新規入会者のネットワークの醸成や既存会員による協会サービスの利活用の向上は重要だと考えます。また、投資家、メディア、企業経営者の皆様に、期待される監査役像をより深く理解してもらうための対外的なコミュニケーションの強化も欠かせません。近年では監査役等が投資家と直接コミュニケーションを取るケースも増えてきたため、外部に向けた発信を強化することで、監査役等の役割への理解が深まり、より機能を発揮しやすい環境が整っていくと考えています。加えて、SME向けの事業についても、1名体制の監査役等や、IPO準備企業の監査役等の皆様は、実務において様々な課題や悩みを抱えているケースも多いと思います。こうしたニーズに対応するため、SME向けの講演会や情報交換会の充実を図っています。また、プロジェクトチームを組成し、横断的な課題の把握と解決に向けた取組も進めています。
以上を踏まえて、全国会議は監査役等の皆様に向けて情報発信を行う年2回の重要な場ですので、会員の皆様にとって有益な内容となることを最優先に考えております。
2. 監査等委員会設置会社の増加について
後藤:2015年に監査等委員会設置会社制度が導入されて以来、多くの上場企業が同制度への移行を進めており、昨年は、プライム市場において監査等委員会設置会社の数が、監査役会設置会社の数を上回る状況となっています。こうした動向を踏まえ、協会では監査等委員会実務委員会を再開しました。同委員会の委員長を務める狭間副会長より、機関設計の選択に際しての自社の考え方や移行の経緯、さらに移行後の実務上の変化、そして同委員会における検討状況などについて、お話しいただけますでしょうか。
狭間:当社は2024年6月に監査等委員会設置会社へ移行しました。近年、事業の多様化・高度化が急速に進み、特に直近10年間で海外事業が大幅に拡大したことで、迅速な意思決定を求められる案件も増加しました。取締役会においても短期的・個別的な案件が相当に増加したことから、本来取締役会が果たすべき中長期的な経営戦略の策定機能が希薄化してしまうのではないかという懸念が生じていました。会社法上の三つの機関設計に制度上の優劣はありませんが、現在の当社の置かれた状況においては、監査等委員会設置会社が、機動的な意思決定と客観的な監督性を高い次元で両立でき、持続的な企業価値向上を図る上で有効な選択肢であると判断しました。
移行に当たっては、実効性を発揮させるために主に3点、検討しました。
1点目は、指揮命令権の明文化です。コンプライアンス上の重大な疑義が生じた際など、機動的な調査が必要と判断される場合、監査等委員会が内部監査部門を直接指揮できる権限を社内規程上で明確にしました。2点目は、内部監査部門の人事及び計画への関与強化です。内部監査部門の要である監査部長の任命、監査計画の承認については、監査等委員会の同意を必須とし、内部監査部門との連携をより強固なものとしました。3点目は、取締役会付議基準の抜本的見直しです。
権限を大幅に執行側へ移譲した一方で、社外取締役の情報量や判断材料が不足しないよう、特に重要テーマについては、経営諮問委員会などの任意委員会を設置し、これらの場で情報を補完し、幅広く意見を収集しています。
3. 実務に関するトピックス
(1)サステナビリティ情報の開示と保証
後藤:時価総額3兆円以上の企業については、2027年3月以降に終了する事業年度から、SSBJ基準に基づく開示が有価証券報告書において義務付けられます。また、その翌年度からは保証も必要になる見込みです。そこで、現在注目されているサステナビリティ情報の開示に関する対応状況や準備の進捗について、丹羽副会長よりお話しいただけますでしょうか。
丹羽:まず、当社のサステナビリティ経営に対する基本姿勢についてご説明いたします。当社には、創業以来大切にしてきた「社是」がありますが、その中に「研究と創造に努め常に時流に先んず」、「最善の品質とサービスを以て社会に奉仕す」という言葉があります。これは、研究と創造によって技術を磨き上げ、事業活動を通じて社会課題の解決を図ることで社会に貢献していくという理念を表しています。正にサステナビリティ経営であり、これを、世代を超えて伝えていかなければならないと考えています。
そこで当社では、デンソーグループとして「サステナビリティ方針」を策定するとともに、様々な社会課題解決のためデンソーが貢献できる分野として、環境、安心、企業基盤の三つを掲げ「マテリアリティ」を設定しています。マテリアリティについては、昨年「サステナビリティ会議」を立ち上げ、これを年2回開催することとし、その中で社会情勢や経済環境、事業環境の変化を踏まえて見直しを行う体制を整えました。見直し内容については経営会議や取締役会に付議し、内容に問題がないかについて確認するプロセスを設けています。また、お客様や取引先、従業員、地域の方々、そして投資家などステークホルダーからもご意見をいただくようにしています。
(2)グループ・ガバナンス
後藤:グループ企業での不祥事が相次ぐなど、グループ・ガバナンスに関して様々な課題が生じている状況を踏まえ、昨年11月、ケース・スタディ委員会にて取りまとめた報告書「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」を公表しました。そこで、ケース・スタディ委員会の前委員長である髙橋副会長から、自社グループにおけるガバナンス体制の整備状況や課題についてお話しいただけますでしょうか。
髙橋:まず、報告書についてご説明いたします。事業環境が大きく変化する中で、企業の在り方やグループの構成も絶えず変わっており、グループ全体として企業価値を向上させるためにはグループ・ガバナンスの整備が不可欠であるという認識から本テーマに取り組んだものです。
この報告書は、昨年10月の全国会議においても取り上げましたが、アンケート結果からは、会員各社のグループ・ガバナンスに関する課題が多く浮き彫りになりました。
調査は、大きく三つに整理しています。一つ目は、グループ・ガバナンスの体制そのものがどのように構築されているかです。親会社の関与や3ラインモデルの状況、グループ会社からの報告体制を中心に調査しました。二つ目は、グループ会社に対する監査体制とグループ会社の監査役等との連携状況です。そして三つ目は、グループ会社監査役等の兼務状況です。
グループ・ガバナンスにおいては、親会社が主導してガバナンス体制を構築し、子会社を適切に支援することが重要です。また、親会社・子会社双方の役員が、コンプライアンス、ガバナンス、内部統制についての理解を深めることが不可欠です。加えて、3ラインモデルの各ラインの役割と責任を明確化し、親子会社間や部門間での円滑なコミュニケーションを通じて実践すること、そして、各ラインに所属する職員自身が、自らの役割と責任をしっかり理解することが求められます。
もっとも、これらはいずれも基本的には執行側が主体となって取り組むべき事項です。監査役等の役割は、会社全体を俯瞰し、これらの取組が適切に実践されているか確認し、ガバナンスの改善を継続的に促していくことです。最も重要なのは、グループ監査役等同士の連携・コミュニケーション、そして情報収集を着実に行うことです。特に、不祥事やインシデントが発生した際には、迅速かつ正確な情報収集が不可欠であり、そのための報告体制の確立が重要なポイントとなります。
寄せられたご意見の中で多かったのは、内部監査部門との連携をより深めたいものの、人員不足が大きな課題になっているという声で、内部監査部門の体制が十分でないという会社が非常に多いという結果となりました。こうした状況については、監査役等が経営陣・執行側に対して体制強化に向けた助言を行うことが必要ではないかという意見をまとめました。