対談・座談会

◆2026年を読む 監査役等を取り巻く環境の動向(新春対談:田中教授×塚本弁護士)

監査等委員会設置会社の増加や、会社法改正の議論など、監査役等を取り巻く環境は変化を続けています。こうした中、当協会の委員会専門委員として、各種報告書や提言等の取りまとめにご尽力いただいている田中亘先生(監査法規委員会)と塚本英巨先生(監査等委員会実務研究会)より、監査役等に関わりのある法令・制度の課題や今後の見通し等についてお話しいただきました。

[出席者]<公益社団法人日本監査役協会 委員会専門委員>
田中  亘(東京大学 社会科学研究所 教授)
塚本 英巨(アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士)


塚本 英巨氏(以下、塚本):本日は、日本監査役協会の新春企画ということで、東京大学の田中先生と私、塚本の二人が対談形式で監査役、監査委員、監査等委員(以下、「監査役等」)の皆様に関わる法令・制度等について、2025年までの状況を振り返りつつ、2026年の見通しを考えていきたいと思います。
今回取り上げるテーマは、近時の監査等委員会設置会社への移行を巡る論点や次期会社法改正の動向、2025年に金融庁から要請された有価証券報告書(以下、「有報」)の株主総会前開示への対応及び2026年以降を見据えた課題、そして2023年8月に経済産業省が公表した企業買収行動指針1)を受けて増加している同意なき買収提案の動向の四つです。

1.急増する監査等委員会設置会社

⑴ 監査等委員会設置会社が選択されるわけ
塚本:それではまず、監査等委員会設置会社の状況について伺います。2025年6月総会を経て、東証プライム市場においては監査等委員会設置会社の数が監査役会設置会社の数を上回りました2)。私としては、2026年以降更に監査等委員会設置会社への移行が進み、場合によっては2027年頃までには、少なくともプライム市場では監査役会設置会社がかなり少数になる可能性もあると思っていますが、田中先生はこの点いかがでしょうか。

田中  亘氏(以下、田中):2014(平成26)年の会社法改正で監査等委員会設置会社が導入されてから10年ほどしか経過していない中、急速に移行が進んだと感じています。
私は、本改正時に法務省の法制審議会会社法制部会に参加しておりましたが、当時、本制度について「監査役にも取締役になってもらうような制度である」ということを申し上げた記憶があります。監査役は取締役会で議決権を持ちませんが、取締役会には出席しており、実務上、発言する際に「適法性に関することか、妥当性に関することか」という区別を特に意識していないという話も聞いており、そうであるならば、監査役が取締役会で議決権を持つことに問題はないと思ったのです。
監査役制度は日本独特の制度ですが、理論的な整理としては、監査を担う役員が取締役として意思決定にも参加する形態と、適法性の問題に関して意思決定機関から独立して監査を行う形態の二つが存在し得ます。従来、監査役であった役員であっても、会社の意思決定に関与することが可能なのであればそちらを選んでもよく、どちらの制度を選択するかは各社の判断次第だと思います。

塚本:元々監査役は取締役になるような素地もあったため、監査役が監査等委員として取締役会で議決権を持つということも受け入れられやすかったということでしょうか。
また、当時、社外取締役の義務化の選任が求められており、社外監査役を監査等委員である社外取締役にスライドできる監査等委員会設置会社は選択しやすいものでした。コーポレートガバナンス・コードで社外取締役を3分の1とすることが求められ、今後更に過半数とすることが求められる可能性がある中で、この点は重要なのではないかと思います。

田中:おっしゃるとおりだと思います。大きな要因としては、投資家から社外取締役を増やしてほしいという要請があり、一方で、企業にとっては、社外監査役と社外取締役を両方選任するのは難しいということがあったと思います。

塚本:そのような状況の中で、「社外取締役の確保を目的とした移行ではないか」という声も聞かれますが、田中先生はこの点についてどのようにお考えでしょうか。

田中:本制度が導入される前も、監査役は社内・社外を問わず、取締役会への出席義務があり、そこで発言をしていました。ですから、従前監査役であった人が、監査の役割を担いつつ、同時に取締役として意思決定に参加することに違和感はありません。これまで監査役として役割を果たしていた人が監査等委員に移行するというのは、ある意味自然なことではないかと思います。
一方で、監査役は適法性の監査を行います。適法性の問題は、本来、多数決で決めるものではありません。会社において適法性が疑われる業務が行われていた場合、一人でもそれを調査し、止めることができなければならない、という独任制の考え方が監査役制度の基礎となっています。また、業務執行側からの独立性の確保のため任期が長いという点もあり、これらは監査役(会)設置会社を選択するメリットだと思います。
監査等委員は独任制ではありませんが、監査等委員会は社外取締役である監査等委員が過半数を占めているため、組織として監査を行った場合も独立性が確保されていると考えられています。しかし、社外性を確保すれば自動的に独立性が担保されるわけではなく、現実には、社外監査等委員の見識に相当程度依存しています。組織としての独立性が十分に確保されていることが重要です。
もし、多くの会社が監査等委員会設置会社へ移行する理由が、企業にとって最適なガバナンスの選択ではなく、監査役会設置会社における監査役の任期の長さや独任制を敬遠することにあるのであれば、その状況は懸念すべきものだと思います。
特に経営陣自身が関わるような違法行為ですと、一人でも独立して調査ができ、その違法行為を止めることができる監査役会設置会社のメリットもまだあると思っています。その点では、長い歴史の中で強化されてきた監査役制度が、今後少数派になってしまうかもしれないというのは、少しもったいないという面もあるのではないかと思います。

塚本:確かに長年かけて築き上げられた監査役制度がなくなってしまうのはもったいないですね。任期の点は、他の役員の任期や定年との関係で、任期途中での辞任といったこともあり、執行側からすると監査役の任期は長い、と言われることもあるようです。

⑵ 常勤者が果たす役割
塚本:監査等委員会設置会社へ移行した会社は、2025年だけでも100社近くに上っています。監査等委員会設置会社をどのように運営していくのかという点も課題として挙げられます。2014年改正の当時、田中先生は、海外の制度との関係も踏まえて常勤監査等委員の義務付けに慎重なご意見であったかと思います。監査等委員会設置会社で常勤監査等委員の設置が義務付けられていない点についてどのようにお考えですか。

田中:例えばアメリカですと、経営陣からの独立性を非常に重視しており、上場会社の監査委員は、原則として全員が独立取締役であるべきとなっています3)。独立取締役であることと非常勤であることは別の概念ですが、通常、独立取締役は常勤者ではないので、全員非常勤だといってよいと思います。常勤者は、その会社の内部者なので、事実上、経営陣の指揮監督を受けることになるという懸念があるためだと思います。
私は、協会の監査法規委員会の専門委員を務めておりますが、委員会で常勤監査役や常勤監査等委員の方々と意見交換をして感じることは、常勤だからといって必ずしも経営陣の影響を受けるわけではないのではないかということです。個々の監査役等の方は自身の職責を認識し、やるべきことをしっかり果たそうという強い意識をお持ちです。常勤者を設置しないことは、独立性の観点からは有用かもしれませんが、同時に監査等委員・監査委員だけで監査の実務を遂行することは不可能であることを意味しています。独立取締役だけの監査委員会が機能するとすれば、それを補助する常勤の人が存在しているはずです。
海外だと、内部監査部門が監査委員会の指揮監督を受ける存在であり、監査委員が全員非常勤・独立というのは、そういったことが前提にあると思います。日本の監査等委員会設置会社は、従来の監査役制度のように常勤で監査実務を行うという仕組みにも、内部監査部門等に対して指揮命令することを通じて監査するという仕組みにも、どちらにも対応できるような制度になっていると思います。しかし、常勤者を設置しないで、しかも内部監査部門に対する指揮命令権も十分でないなら、単純に監査の機能が弱まることになりますので、そこは懸念する点ですね。

塚本:実態としては常勤者が重要な役割を果たしているかと思います。監査に必要な情報をどのように収集するか、常勤者がいる場合は常勤者が情報収集を行い、いない場合は内部監査部門を活用するという形になります。監査等委員会設置会社に移行するに当たっては、常勤者を設置しないのであれば、監査等委員会としてどうやって情報収集を図るのか確認する必要があると思います。
そういう意味では、私は監査等委員会に常勤の監査等委員を義務付けるべきかというと、そこは各社の選択の余地を残すため任意とすることでよいのではないかと思います。

田中:それはそうですね。

続きは月刊監査役783号(2026年1月号)、784号(2026年2月号)をご覧ください。


【注】

  1. 経済産業省「企業買収における行動指針」(2023年8月31日)。
  2. 2025年6月の定時株主総会を経て、プライム市場において、監査等委員会設置会社の数が779社(48.0%)となったのに対し、監査役会設置会社の数が761社(46.9%)となった。東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2025年7月18日)17頁。
  3. 1934年証券取引所法規則10A-3条(b)項⑴号(17 CFR§240.10A-3(b)⑴)。
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