監査役インタビュー

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No.15(04年6月) 成田国際空港株式会社 常勤監査役 神谷 拓雄さん


テーマ:改定「監査役監査基準」の実務展開について

kk_0406_photo1.jpg 監査役のお話を紹介する「今月の監査役」。第15回目となる今回から、テーマを絞ってお話を伺うことにいたしました。
今回のテーマは、30年ぶりに全面改定した《改定「監査役監査基準」の実務展開》についてです。
 4月に株式会社に移行し、3年後の株式上場、その後の完全民営化を目指す成田国際空港株式会社の常勤監査役、神谷さんからお話を伺いました。
 
 
《インタビュー》

本年2月、当協会では「監査役監査基準」を全面的に改定いたしました。御社ではいち早く改定の趣旨を取り込んだ「監査役監査要綱」を作成されたということですが、その理由をお聞かせください。

 わが社は、新東京国際空港公団という公団でしたが、昨年7月に「成田国際空港株式会社法」が成立し、4月1日から株式会社となりました。ただ、現在のところ株主は100%政府で、3年後(東証の基準による)に株式市場への上場、その後の完全民営化を目指しています。上場するためには、政府が株を手放してくれなければならないのですが、そのためには株価が好調で、ある程度高くなる必要があります。株主に評価される会社を作るには、しっかりしたコーポレート・ガバナンス体制の確立が必要になってくる。これが第一の理由です。
 公団には、数ある公団に共通にいえることですが、国の代行機関という性格からあらゆる分野について細かい規程があり、また、外部(会計検査院、総務省、財務省、国土交通省など)からの監視コントロールが行き届いています。それらに従って忠実にやっていれば問題が生じないようなガッチリした枠組みが出来上がっているのです。ところが株式会社になると、それらの規程や監視がなくなる、又は緩やかになるので、しっかりした組織を作って自ら不祥事対応をしていかなければならなくなります。そこで、しっかりした「監査役監査要綱」を作ろうということになったのです。
 また、公団では監査役に当たるものを監事と呼んでいますが、私は監事時代から日本監査役協会の実務部会、研修会、講演会等に参加していたので、そこで仕入れてきた知識をその都度総裁に進言していました。

 わが社は、その総裁がそのまま引き続いて社長(黒野匡彦氏・元運輸省事務次官)に就任したのですが、社長自身が不祥事を起こさない体制を確立することを強く望んでいるということも理由の一つとして挙げられると思います。
kk_0406_photo2.jpg わが社の社長は、民間企業の経営経験は一度もないのですが、民間的経営センスに長けており、強いリーダーシップに勝れ、何よりも発言が非常に明快で、実行力もあり、積極的にガバナンス体制を確立していってくれました。
 加えて、幸いにもわが社の職員の中には立法技術に長けた者が多くいるということがありました。皆の力を結集して非常にわかりやすい「監査役監査要綱」が出来たと思っております。
わが社には現在4人の監査役がいて、その構成は常勤3名、非常勤1名、公団の伝統的な役員人事配置の名残りもあって、全員社外(新東京国際空港公団の内部出身者でない)監査役となっています。また、監査役室に4名、業務監理部(内部監査部門)に8名(兼務2名を含む)、その他の内部統制部門を合わせると相当数の監査役スタッフまたは監査協力者がいます。
 最後にもう一つ、いち早く「監査役監査要綱」を作った理由ですが、どうせ作るなら、全国の各社に先駆けて、新しい「改定監査役監査基準」の趣旨を取り込んだ第一号の会社になりたかったということです。


「改定監査役監査基準」の具体的な取り込み方を伺いたいのですが。

 全体的には、改定の趣旨、改定の「こころ」は、ほとんど取り込んでいます。
 取り入れ方を変えたものとしては、まず、改定基準第2条(監査役の職責)の「監査役は良質な企業統治体制を確立する責務を負っている」という規定です。これは、ちょっと監査役の職責範囲を超えていると思いましたので、「監査役は、企業統治体制を構成する一員としてその確立に寄与することにより、会社の持続的な成長を図り、もって社会的要請にこたえることを責務とする」としました。やはり、企業統治体制を確立する第一義的な責務は、経営・執行サイドにあるのではないでしょうか。
 また、わが社では別途「内部監査規程」を定め、又、組織図に示しておりますように業務監理部等の内部統制に関する部門も新設され、それらが全体をカバーしておりますので、「監査役監査要綱」では、それらが機能していないときに「助言又は勧告」するというように簡単に規定しています。

kk_0406_photo3.jpg さらに、改定基準第10条(監査職務を補助する体制)については、我が社の業務には、航空機のスポット割当てや空港建設に関わる部門等、専門的知識を有する技術者でないとわからないことが多いため、それらの者に監査の事務を補助させることができるように規定を追加しました。
 改定基準第27条(監査役監査の環境整備)第一号の「監査役監査の重要性と有用性に対する代表取締役その他の取締役の認識及び理解」については、わが社では、社長が大変理解のある人ですので、この規定をわざわざ「監査役監査要綱」に記載するまでもないと考え、記載していません。
 一方、改定基準第14条(取締役会等の意思決定の監査)については、協会の「監査役監査基準」が大変良く出来ていると思いましたので、そのまま取り入れました。
 この他、基準の法文化にあたっては、特に「監査役の職務」のところなど、整理・統合したところが多数あるのですが、もし、各社さんで必要があれば、ご活用していただければと思っています。

成田国際空港株式会社監査役監査要綱

成田国際空港株式会社監査役会規則


監査役さんの悩みとしては監査役の仕事に対する社長の理解が得られないという事がよく出てきます。お話を伺っていますと、御社では、社長さんとのコミュニケーションがうまくいっていらっしゃるようですが、神谷さんは社長さんとのコミュニケーションをどのように取られていらっしゃいますか。

 月に一度の取締役会、毎週開かれる経営会議等に出席する他、二月に一回、代表取締役との定期的会合を行います。そこで代表取締役から機微に触れるようなことをお聞きできればいいのかなと考えています。
 また、この「監査役監査要綱」の作成にあたっては、社長に時間がありそうだなと思ったときには、頻繁に話しに行っていました。


内部統制システムについては、皆さん興味のあるところだと思いますが、御社ではどのような内部統制システムが構築されているのか教えてください。

kongetu0407_zu01.jpg わが社では、業務監理部というところが内部統制部門の中えます。以前の監査室が監査役室と業務監理部に分かれてできた部門です。業務監理部は、コンプライアンス委員会、内部通報制度、社員行動規範、会計検査院の窓口としての事務局を兼ねているほか、内部監査事務も行っています。
 私は、内部統制システムについては、社長以下全員がその要員だと考えるべきだと思います。それらがちゃんと機能しているか否かを社長が自ら指揮して監督し、それを監査役が監査するということになるのではないでしょうか。

これらの組織は、どのように機能しているか教えてください。

 形はよくなったと思いますが、まだ、必ずしもちゃんと機能しているとは言えないと思います。たとえば、CS(Customer's Satisfaction)推進委員会(平成15年12月立上げ)は4回くらい開催しましたが、他のIT推進委員会、エコ・エアポート推進委員会等はまだ1回しか開催していません。監査役としては、こうした組織がきちんと機能しているかどうかを見ていくことが重要だと考えています。
 それから、今回わが社ではコーポレート・ガバナンスの一環として執行役員制度を導入しました。常務執行役員が2名、執行役員が6名います。


これから新しい「監査役監査要綱」を実務に展開されるわけですが、どのようにしていこうとお考えですか。

 まず、手続的なことを確実にやっていくことが大事だと思います。わが社には現在4人の監査役がいますが、監事時代から引き続いてやっているのは私ひとりなので、他の3人の監査役は、監査について充分事情に通じておられるとはいえません。協会の「新任監査役研修会」や「実務部会」に積極的に参加していただいて、知識の集積に努めていただかなければならないと思います。
 それから、監査計画を立て、それに従って監査していきます。今、全ての部署共通の監査項目や各部署ごとの重点監査項目を作成しています。そして各部署ごとに監査を実施し、それらをまとめて最終的な「監査報告書」を作成していく予定です。一年に一回、一つの部署につき一週間くらい時間をかけて充分な監査を行います。
 また、「監査報告書」を出す前に監査役会と被監査部門とで調整をする時間を設けることにしました。監査役が一方的に監査するだけでは悪いところも改善されませんよね。監査される方と調整することによりお互い納得して初めて改善に繋がると考え、新しく取り入れたやり方です。
 以前は各部署ごとに「監査報告書」を書くようなことは行っておらず、集中監査月間を設け、全体的な監査をしていたので、「監査報告書」に書かれる部署、書かれない部署があったのですが、これからはそういうことはなくなります。


今後の課題を教えてください。

kk_0406_photo4.jpg 私は運輸省出身ですが、約2年前に新東京国際空港公団の監事になるまで、8年くらい民間会社の経営に携わってきました。わが社に以前から在籍する者で純粋に民間企業の経験があるのは私だけではないかと思います。
 取締役も監査役も会社をいかに継続的に維持・成長させていくかということが重要で、両者は、同じ目的に向かって進まなければいけないと思います。ある事業部門で利益が出ずに赤字が累積したら、崩壊する前に見切りをつけるよう進言する役割を担うのも監査役ではないでしょうか。会社を継続的に維持・成長させるという同じ目的を持ちながら、いざというときにブレーキをかけるというのも監査役の大事な役割だと考えています。
 もう一つ監査役として大事なのは、会社の情報をどれだけ集められるかということだと思います。実務部会などでお話を聞くと、社内出身の監査役の方と社外監査役の方のお話は内容の深さがぜんぜん違います。私も社外監査役ですので、情報が完璧に集まっているかどうかについては正直不安です。社内資料は、こちらが言えば提出してもらえますが、言わないと手に入らず、情報は自動的には回ってきません。耳を研ぎ澄まして、監査を行っていかなければならないと思っています。


ありがとうございました。

≪神谷さんの略歴≫
1944年生まれ。1967年運輸省入省。1994年運輸省退職。1995年海上アクセス(株)副社長。1998年 空港エンジニアリング(株)社長。1998年関西国際空港ビルディング(株)常務(兼)。1998年(財)関西交通経済研究センター理事長(兼)。1999年国際空港サービス(株)社長(兼)。2002年新東京国際空港公団監事。2004年成田国際空港(株)常勤監査役に就任し、現在に至る。

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