監査役インタビュー

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No.12(03年6月・7月) 旭有機材工業 監査役 笹尾 慶蔵さん


「監査役から副社長、そして監査役に」

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  一般に余り知られていない監査役の働く姿や、生の声などの情報をHPで提供していく「今月の監査役」。
 第12回目は、協会副会長でNet会員相談室運営メンバー代表の笹尾さんです。笹尾さんは、旭化成にいおいて監査役を経験した後、副社長に就任し、再び同社監査役に就かれました。現在は、旭有機材工業において3度目の監査役に就任されています。今回は、ベテラン監査役笹尾さんから、新任監査役の方々へアドバイスについてロングインタビューとなります。


《インタビュー》

監査役に3回就任されていますが、最初に就任した時のお話をお聞かせください


 ;最初に監査役に就任したのは今から18年前になります。当時の監査役に対する世間の印象は会計監査を少々やっているというようなものでした。しかし、旭化成の場合は、社長が49年商法改正時に、法制審議会の議論に参画していたこともあって、社長の監査役に対するイメージは、世間よりは進んでいたと思います。そういう社内的背景がありましたので、監査役に就任した時は、「全社的なことがいろいろとできるな」と前向きに受けとめました。これは非常にハッピーだったと思っています。これが私の監査役の原点です。
 当時はまだ業務監査についての定型というものはありませんでした。私は漠然と「業務監査というのは経営監査だな」と理解しておりました。経営監査ということであれば、経営者である社長が今一番関心を持っている問題に取り組まねばならないと考えました。当時問題となっていたのは、技術は社内外から高く評価され事業化したが、数年経っても黒字化しないという問題と、大きい新規事業のひとつが軌道に乗らないという問題でした。そこで、私は、前者の問題に取り組みました。
 先ず、当社の製品(装置)が納入されている会社の工場に行き、当社から出向している技術者から話を聴きましたが、当社の装置は3ヶ月前に納入されたばかりだが、1ヶ月以内で不具合のため運転を止め、部品交換等して再スタートを繰り返しているものがあることを知りました。
私は、そこでもらった1台1台の詳細な運転データを整理し、調査報告を社長に提出しました。当時当社の社長は、20数年社長をやっており、従業員からは雲の上の存在で、こんな私の報告書なんか果たして読んでくれるか危惧しましたが、社長は、非常に関心を示され、「これを本格的に監査してくれ」ということになりました。
 先ずこの装置を製造している当社の工場に行って話を聴き、裏付けとしてのデータを求めます。事務所に帰って整理するのですが、私の理解では整合性がとれないところが沢山でてきます。電話で聞く、又、工場に行く、この繰り返しでした。私は事務出身ですから苦労しました。
 とにかく現場のデータをベースに監査報告をまとめました。社長はこれを熱心に聴いてくれ、翌日ある経営決定をされました。その時に実感したことは、「私はこう考える」という監査役の意見からスタートしては余り説得力がないということです。むしろ、1つ1つの客観的データや事実をベースにものを言うということは、非常に説得力があるということです。それで監査役に対するトップの評価が変わるということです。この監査報告を出してから私の提言は非常に受入れられやすくなりました。そういうことで、最初に監査役に就任をした時は、このような「原点」があったのでその後の監査の仕事がうまくいったのではないかと思います。
 2回目に監査役に就任した際は、全事業に絶えず関わるトップマネジメントを経験した後のことです。この時は逆に会社のことを全部理解している訳ですから、監査の対象となる相手も、監査役の話を聞いてくれやすいので、何の抵抗感もありませんでした。ただ、自分が取締役の時は特定の業務執行を担当しているので視野が狭く、自分の今の職責に対して客観的に見る余裕はなかったという反省を肥やしにして、また別の視点で会社を見るということで、5年前に2回目の監査役になった時は新任の時のような変な気負いもありませんでした。そういう意味で、非常に楽でしたね。


監査役からトップマネジメントに行かれたとき、監査役を経験したことがプラスになりましたか?

 ;プラスになりましたね。やはり取締役というのは日本では1つの待遇です。例えば、販売をずっとやってきた人が販売部長となり、更に取締役になったりします。従業員が取締役になっても、上下関係こそあれ仕切り線がありません。意識面において殆ど変わらない。延長線上ですね。また、従業員から取締役になった人に「取締役って何をやればよいのか」と考える人はいません。仮に工場をやっていた人が販売をやることになったとしても、行わなければならない何らかのイメージはあります。ところが監査役というのは、皆初めての経験です。ですから、「何をやったら良いのか」というところから始まる人が多いのですよ。私の場合は、1回目に何をやるかは自分で決めていましたので、どうやるか、How toから入れた。新任監査役に言いたいことは監査役の仕事はそんなに難しいことではなく、やはり自分の問題意識をはっきりさせて、何をやるかと言うことは自分ではっきりつかんで、そこからHow toに関しては、人に聞いたりいろいろな本を読んだりして、勉強すればよいと思います。


監査役が就任時にまず行わなければならないことは?


 ;監査役について全く知らない人を前提にしますと、まず概念を掴まなければならないと思います。これは難しい本を読む必要はありません。商事法務研究会が『監査役ガイドブック』というものを発行しています。これならば30分程度で読め、監査役の基本的なことを理解することができます。もう1つは監査役協会の「監査役監査基準」ですね。特に第3条の「監査役の心構え」が書いてある部分、最低ここだけはまず読んでほしい。とりあえずはそれ以上の勉強はする必要はありません。何も分からないのでは仕方がないので、まず基本的な「監査役とは何か」ということを学び、後は実際に行動すべきです。
 講習会等に唯漠然と何か得るものがあるかという意識で行ってもあまり意味がありません。「何をしたい」「今こういうことをしたい」というニーズを持って行くと非常に「ああ、そうか」と掴めるのですが、ニーズが無いのにいくら勉強しても、教養としての知識しか増えません。まず概念を掴む。これは極めて短時間で簡単なもののほうが良い。その次に実際に行動する。その時には同時に問題意識を持ってほしい。問題意識というのはそんなに難しいことではなく、執行部なら執行部での経験をベースにすればいいのです。 
 要するに会社の健全な経営を妨げる要因が当社にないだろうか、社会の信頼を損なうことが当社で行われていないか、時代の流れに適応しているか、といったようなことです。
 誰も従業員であった時は、会社に対して疑問を抱くことがあったと思います。自分自身ではどうしようもない会社の体質に関わるような、そういう疑問をもう1度リマインドしていただいて、そういう問題にアタックすることが重要です。「これだ」という問題の対象がはっきりすると、技術系の人であれば技術の視点で会社に問題がないかと検討すればよいし、営業の人は営業の中で例えば他社に対して営業体制として問題はないかを吟味すればいいのです。商法や会計に関する専門書を隅から隅まで読む必要はありません。まずは、ここから監査をやってみる訳です。それで後で段々広げていく。最初に専門知識の勉強に没頭してしまうと、その人はずっと行動しない監査役になってしまいます。最初にまず概念をつかみ、問題意識を持って対象にアタックする。これを初期動作としていただきたいと思います。これを踏まえた上で、分からないことが出てくれば会社の法務に聞いてもよい、会計士に聞いてもよい、あるいはNet会員相談室に聞いてもよい。全部頭に詰め込む必要は無く、どこへ行ったら聞けるのかさえ知っていれば良いのです。目的があって、それに対してアクションする。そういう気持ちで講習会を聞いたり、本を読んだりすると良いのです。


協会の活動に参加する意義というのは?


 ;2つあると思います。1つは、問題意識に対する取り組み方、つまりHow toを得るということです。実務部会のような場でHow toの議論が出来なければ、つまり協会が無くて各社一人で悩むとすれば、相当混迷するだろうと思います。
 もう1つは「癒し」です。「癒し」というと後ろ向きに聞こえますが、同じ悩みを持つ人々の中に来て、そこで話をして勇気づけられ、慰められ、という要素の役割は大きいと思います。例えば社内に1万人いたとして、心の中で繋がっていたとしても、監査役が悩みを執行部門に相談する訳にもいかない。そういう意味では、同じ悩みを持った人間が6,000人もいて、特に実務部会などでリアルな話が出来るというのは大きな支えになっていると思いますね。


監査役が起こしやすい失敗についてお聞きしたいのですが。

 ;目的意識のない監査はしてはいけないということですね。中には監査に行ったら何か見つけてこなければならないという人もいますが、変なプロ意識は持ってはいけないと思います。何かミスを見つけて鬼の首を取ったように言うと、一挙に社内での信用をなくしてしまいます。監査役監査基準にも書かれていますが、最後はやはり、会社の健全な発展に貢献出来るかどうかが重要です。その為に監査役はいるのだと思います。そこでミスを見つけて現場の人の点数を下げても、そんなものは会社の発展になりませんよね。そういう意味でも、監査の為の監査・目的に外れた監査はしてはいけません。
 それからもう1つは同じような事なのですが、「効果」ですね。監査というのは絶えず効果を考えないといけません。自分が監査することが会社の健全な発展に対してどのように貢献しているのか、と。効果がない監査は自己満足の監査になります。「これをすれば会社が良くなる」という意識が重要なのです。


取締執行部との関係で大事なことは?


kk_030607_photo2.jpg ;やはり信頼関係ですね。信頼というのは癒着ではありません。「あいつのいうことは癪だけど、確かに言うことを聞かなければ損だ」という意味での信頼です。この信頼関係が無くて商法ばかりを頭に詰め込んでしまうと、監査役と取締役は対立関係となり、極端なことを言うと一緒に食事をすることも、同じ席で談笑することも出来なくなります。
 社外の人はインディペンデントだからものが言いやすい、とよく言われていますよね。しかし、逆に長年の付き合いがあり信頼があるから「あいつの言うことなら聞くよ」という面もあります。やはり、社内監査役の場合はそういう風になってほしいと思います。だから、社長から選任されたからものが言えない、というのはエクスキューズであって、その時に大事なことはやはり、監査役が言ってくる助言・勧告・提言は、現場の生の情報に基づいた、フェアな立場から事実をベースに解析したものであり、苦言であっても耳を傾ける必要があるな、という信頼感です。私が最初監査役に就任したばかりの頃もそうでしたが、社長に自分の意見を話したところで取り上げるはずもありません。それでも社長が目の色を変えて聞いてくれたのは、やはりそこに事実があるからなのです。「事実をして語らしめよ」と私は監査役にいつも言います。事実というのはものを言うのです。まず頭をフェアにして事実を確認し、その事実を解析して監査意見を出す。これをベースに監査を進めていくことが信頼感を増すのです。


内部統制が機能しているか、「事実」の把握が重要ですね

 ;会社に重大な損害を与える法令違反に繋がるようなものというのは、社内には通常たくさんあるものです。それらをチェックするのがいわゆる内部統制なのですが、取締役が内部統制システムを確立しているか、適切に運用しているかを監査するのは監査役の重要な役割だと思います。それを言うのに勇気がいるというのは、私は嘘だと思います。社長がしていることに「あなたは不正していますね」と言うのは難しいかもしれないが、会社のシステムとして「こういうことをやっていたら会社がおかしくなりますよ」、「会社にこういう問題が起きますよ」というようなことを指摘して、聞く耳をもたない社長はいません。多くの会社で、重要な情報が中間層で止まっていることが多いようです。それは内部統制の輪が繋がっていないことに原因があります。監査役の中には「権限がないから」、「社長はものわかりが悪い」などと言う人もいますが、監査役が現場の生の情報を収集して「聞かせる監査報告」をしているか反省することも必要です。


最後に監査役のあるべき姿を一言でまとめると?

 ;会社の健全な発展を目的として、経営者は経営をし、監査役は監査をする。共にそのための会社の機関であることをまずはしっかり認識し、その目的のために行動する。そこをしっかり掴んでおかないといけません。
 専門性の問題ですが、皆さん出身がまちまちですよね。会計出身だったり販売出身だったり技術出身だったりと。最初は、自分自身が持っている知識・ノウハウを視点にして経営を見るということをまず始めて下さい。それだけでは足らないでしょうから、それから自己研鑽して知識・経験を広げて下さい。最初からそういうものを全部網羅していないと監査役が務まらないと考えるべきではありません。監査役の仕事は大学ではなく実践の場なのですから、そこのところを勘違いしないで欲しいと思います。


≪笹尾さんの略歴≫
1931年和歌山県生まれ。1954年京都大学経済学部卒業後、同年旭化成入社。工場会計、本社経営計画、建材事業等を経験し、1985年常勤監査役就任。その後、常務、専務、副社長歴任後、1998年再び常勤監査役に就任。2001年退任し、現在は旭有機材工業の監査役。当協会においては、監査品質向上委員会委員長、新任監査役説明講師等を務め、現在、当協会副会長、Net会員相談室代表。趣味は囲碁、美術鑑賞、ハイキング。

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