対談

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◆良質なコーポレート・ガバナンスの確立に向けて ─協会の理念を掲げて(日本監査役協会正副会長座談会)

平成24年2月15日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。当協会の活動や良質なコーポレート・ガバナンス確立のために監査役に期待される役割などについてディスカッションしていますので、その模様の一部をお届けします。速記録全文につきましては、「月刊監査役」2012年4月号(№598)をご覧ください。

  〔出席者〕 <公益社団法人 日本監査役協会>
         会 長  太田 順司(新日本製鐵株式会社 常任監査役)
         副会長  今川 達功(三菱U F J リース株式会社 監査役)
         副会長  﨑山 忠道(株式会社日立製作所 取締役監査委員長)
         副会長  一丸陽一郎(トヨタ自動車株式会社 常勤監査役)
         副会長  神野  榮(関西電力株式会社 常任監査役)
  〔司  会〕  専務理事 宮本 照雄


今期の協会活動

oota.jpg太田 私は昨年5月に会長に就任しました。就任時および昨年の総会時において、どのようなことを述べたのかについて話をします。キーワードは3つあります。

 まず1点目は、 協会としての発信力をどのように強化していくかという問題意識です。

 2点目は、会員サービスの充実と向上です。この協会は、現在会員会社約6,000社、登録会員総数約8,000名という非常に大きな公益社団法人です。その中で、いわゆる会社法上の定義では「大会社」と言われる区分が大体4分の3で、「大会社以外」が4分の1という構成になっています。一方、上場会社・非上場会社という割合で見ると約半々です。とりわけ中小規模会社、総じて非上場あるいは大会社以外の方々は、監査体制も十分に整っていません。そうした会社では監査役の活動を進めていくうえでいろいろな悩みがあると聞いています。そこで中小規模会社に対して、協会の本来の目的の一つである研修をはじめとするさまざまな業務上の指針をどのように示していったらいいかという意味でのサービスの向上を考えました。

 3点目は、監査役・監査委員のスタッフの方々に対する事業の活性化です。協会では従来から監査役・監査委員のスタッフの活動内容も支援してはいますが、そうした方々の研究発表の場や研究成果を、監査役自身の活動につなげていくやり方にもう一工夫あってもいいと思います。

 今期は、「発信力」、「会員サービスの充実・向上」、「監査役スタッフ事業の活性化」という3点をキーワードにして取り組んでおります。

宮本 昨年9月1日付で当協会が公益社団法人へ移行するにあたって、公益社団法人移行のための特別委員会を設けました。今川副会長に委員長を務めていただき、メリット・デメリット、そして公益社団法人に移行することが可能か否かという検討を行ってきました。公益社団法人への移行や協会の活動等について、今川副会長からお願いします。

今川 副会長に就任したとき、築舘前会長から公益社団法人移行のための特別委員会の委員長を委嘱され、検討を進めてきました。一般社団法人と公益社団法人と何が違うのかということについて、いろいろな議論をしましたが、その活動内容はそれほど大きく変わるわけではありません。実務的な視点から、公益社団法人か一般社団法人かという議論を進めようとすると、どちらでもいいということになってしまいます。そこで、昭和49年に当協会が設立したときの趣意は何だったのかを今一度見直すことが必要だと思いまして、当時の設立趣意書を読みました。前文に「今回の商法改正(昭和49年)によって監査役に業務監査権限を付与するなどの権限拡大と強化がはかられたことは、それに伴って、企業経営上監査役の占める地位は旧来と面目を一新し、ひいては、時代の要請に応えた企業の社会的責任の遂行に対する姿勢を示す最も効果的な制度」とありまして、「監査役の使命を昂揚し、監査役の資質の向上と監査機能の発揮を推進するために」協会を設立しようということでした。設立趣意書には、7つの事業活動が書いてあります。
  
  一.企業の社会的責任をまっとうするために、先行的に監査役の姿勢を究明する
  二.監査役のために各種の研修を行う
  三.監査役の情報交換をもって監査役制度の向上をはかる
  四.時宜に応じた監査役のための監査指針を作成する
  五.監査役が新しい局面に遭遇した場合には、全企業の監査役の問題として解明にあたる
  六.監査役と会計監査人との法律上、実務上の調整をはかる
  七.企業の発展のために、監査役の立場から各界への建議、具申または答申を行う
                         【昭和49年社団法人日本監査役協会趣意書より】

imagawa.jpg この設立趣意書を読み、あまり細かい理屈よりも、公益的な使命を持った協会にするべきだと考え、作業を進めてもらいました。協会における活動は、今申し上げた趣意書にあるものを基礎として行われていると思います。

 私事ですが、昭和41年に大学を卒業するときに、初代日本監査役協会会長を務められた鈴木竹雄先生の会社法の最終講義を受けました。鈴木先生は法務省の商法部会の座長として昭和49年の改正を主導されるとともに協会の初代会長に就任されております。先生がいろいろ残されているものを読みまして、協会のあるべき姿は公益に資するべきだということを強く思った次第です。公益問題とは直接関係ありませんが、鈴木先生の残された言葉を紹介します。昭和49年3月に発行された「月刊監査役№54」に、鈴木竹雄先生による「日本監査役協会の設立にあたって」という講演録が掲載されています。当時、鈴木先生は、ブリヂストンの非常勤監査役をされていました。そうしたことから先生は、非常勤の方は、人としては立派な方だとしても、社内の実情をつかむ点において細かいことまではわからない。それを補うのが、社内に精通した誠実な常勤の方だと言われています。常勤の方が絶えず目を光らせて会社の情報を探り、変なところがあると思ったら非常勤の方と力を合わせて社長以下の取締役に変なところを正すように要求するなど、きちんと経営陣に対して臨むことが必要なのだということを盛んに強調されておられました。当時はまだ社外監査役という制度はありませんでしたが、これは、今の社外監査役と社内常勤監査役の関係と変わらないと思います。鈴木先生は、ブリヂストンのほかに、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)や本田技研工業の監査役を務めておられました。鈴木先生は、「監査役は伝家の宝刀だ。伝家の宝刀はめったに抜くものではない。抜くときは相当の覚悟を持って抜かなければいけない。しかし、抜こうと思って錆びついていたら、抜こうにも抜けない。

 やはり刀を常に磨いて、研鑽を積んでおかなければいかない」というようなことをよく言われていたと聞いております。
つまり、いろいろな状況の中で監査役としてきちんとものを言えるかどうかという意志の問題と、同時に「研鑽を積んだ」と言えることの両方が大事だと、そうした理念が根底にあるのだと思います。

宮本 続いて協会の活動について、﨑山副会長からお願いします。

﨑山 ただ今、今川副会長から協会の公益社団法人化に向けた手続きを進める際、原点に立ち返っていろいろ確認されたうえで、体制整備や申請を進めてこられたことを改めて伺って、大変感銘を受けました。

sakiyama.jpg 公益目的事業と認定されるための事業としては23項目が掲げられていますが、このうち当協会は「一.学術及び科学技術の振興を目的とする事業」「一八.国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業」「二十.公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上を目的とする事業」の3つを目的にしています。そういう意味から、当協会は公益社団法人として、会員だけではなく会員以外の方に対しても有益な活動をしていくことが求められているのだと思います。

 その意味で、協会活動の基本方針の中に、中小規模会社に対する支援が打ち出されていますが、これは是非に取り組まなければならないことだと思っています。私自身、グループの子会社を訪問しヒアリングしてみますと、監査役の立場は非常に負担が重く厳しい状況です。例えば、大会社の資本金規模に若干足りない資本金を設定し、公認会計士との契約を締結していないが、事業規模はそれなりに大きな会社があります。そこの監査役は、会計監査から適法性監査まですべてに責任が生じ、かなり厳しい状況に置かれています。協会員の構成は、太田会長のご説明のとおり中小規模以下の会社は4分の1程度のようですが、全国の中小規模の会社はもっと多いわけで、協会の使命として公益性追求の観点からこれらの会社の監査役への支援は重要な意味を持ってきます。基本的な監査のポイント、スキルなど、泥臭いノウハウをきちんと整理して発信する必要が出てきます。


企業不祥事の未然防止に向けて監査役の果たすべき役割


宮本 監査役に求められている役割は従前と変わっていないと思いますが、社会環境あるいは不祥事をきっかけに、問われる責任が変化しています。例えば、昨年秋にmiyamoto.jpg発覚した企業不祥事に関しては、善管注意義務違反によって会社に損害を及ぼしたということで、監査役も会社から提訴請求を受けました。今までは、監査役がこういった重い責任を追及されることは少なかったと思います。当協会は、監査役の理念をベースとして、監査役各位が自覚を持ってその職務にあたってほしいという考え方で、昨年12月9日に「健全な懐疑心を持って、時に経営者と対峙するだけの覚悟を持って職務を全うすることが監査役に求められている」というメッセージを発信しました(月刊監査役№594参照)。

 本件に関しては、会計委員会で今検討している監査役と会計監査人との連携に関する問題、あるいは会計監査人から不正経理の通知を受けた場合の監査役の対応について、協会としても一定のメッセージを出していく必要があると感じています。

 また先般、朝日新聞の「私の視点」において、「健全な懐疑心で経営と対峙」という標題で太田会長の話が掲載されました。これに対しては、いろいろな方から「非常によかった」というコメントをいただいております。このことも含めて、会長に話していただきます。

太田 3つの切り口があるかと思います。1つは、昨年の2社の企業不祥事です。その内容は、経営のトップである代表取締役社長あるいは会長といった、まさに執行の代表者が関与した事案です。私は報道等々を見るたびに、この種のものはどう防げるのか、なぜ防げなかったのか、これからどうしたらいいのかということを考える癖がついています。

 結論から言えば、今回のように経営トップが関与した案件は、なかなか発見や防止ができないものだと思います。防止というのは、周囲や部下からの抑止機能が働くかどうかですが、これは難しいと思います。
その中で、会計監査人と監査役が本当に腹をくくって対峙したかどうかについては、極めて疑問に思うところなのです。

 コンプライアンスは、「法令遵守」と訳されますが、いわゆる義務としての法令遵守だけを考えれば、それだけで企業が健全に発展していく、あるいは自律的な内部統制が充実していくかというと、そういうことでは全くないと思っています。もちろん、会社法も金融商品取引法も義務規定がたくさんありますから、義務を果たさなければ、ペナルティーがあるのは当然です。しかし、あの2つの企業不祥事には、そのことだけでは割り切れない部分があるように思います。

 つまり言いたいことは、義務に加えた社会的な常識いわゆる知的誠実性ということだと思いますが、それをどのように働かせていくかということです。協会としては、その種のことを「ベストプラクティス」と呼んでいると私は理解していますが、これを働かせる余地が、これからどのように拡大できるかがキーワードのように思います。

 2つ目は、規制強化についてです。従来から法の改正は、残念ながら不祥事が起きるたびに、それをきっかけに、法律でどう縛っていくか検討するということが慣例になっています。規制を緩和することはなかなかないのが今までの事例だと思います。
ただ、昨年の2つの不祥事は、日本企業の中での極めて特異な事例であり、この2つをもって一般化し、一般的な法令や罰則の強化に結び付けていくのは、やや乱暴な議論だと思います。

 監査役の権限強化の歴史は、コーポレート・ガバナンスの強化と対になっており、まさにコインの裏表のようなものです。私は、何も監査役の権限を強化することが悪いと言っているわけではありません。ここ40年ぐらいにわたって、企業の健全な発展を守っていくために、あるいはそれを側面から応援していくために、監査役への期待や機能が徐々に高まってきたということだと思います。この間に、4年制任期、任期未満の解任に伴う株主総会における意見陳述権、会計監査人の選解任議案や、報酬に関する同意権、内部統制システムに関する取締役会決議における相当性判断など、たくさんの権限が与えられています。不足している権限のことを考えるのではなく、既に与えられているたくさんの武器(権限)を適正に果たしているかどうかということです。
例えば、同意権については、本当に同意権と呼べるほどの行動を取っているのか。そういったところから、私たちの立ち位置をもう一度振り返る必要があると思っています。

 3つ目は、三様監査についてです。その中の一つである監査法人と監査役との関係については、今回の事案に限って言えば、大変難しい問題をはらんでいます。

宮本 昨年の一連の企業不祥事は、新聞紙上を賑わせて、報道の中では監査役という言葉も頻繁に登場しています。
また経営者と対峙することになった場合、問題は解決したけれども、その監査役の方が非常に厳しい対応を迫られるケースも今後は出てくると思います。そういうときに、協会として何ができるかということも、少し時間をかけて検討していかなければいけないと考えております。

ichimaru.jpg一丸 不祥事については、起こる前の話と起こった後の話があると思いますが、監査役は、起こる前にやるべきことをきちんとやるということに注力すべきだと思っています。昭和49年の商法改正以降、企業不祥事が起こるたびに、監査役の機能は強化されています。その積み上げられてきた今の機能や権限は、実は絶大な力を持っているのではないでしょうか。監査役が、その持っている機能と権限にふさわしい日常的な活動や責任を果たしきれているかどうかが、一番大事ではないかと私は思っています。不祥事防止策として、さまざまなコンプライアンス制度、内部統制制度あるいは内部通報制度等もあるわけですが、監査役自身としてやるべきことが、まだまだ日常的にあると思っています。とりわけ、現場での往査は大事です。事が起こっている現場とコミュニケーションを取りながら、監査役が、事前に「何かおかしいぞ」ということをどのぐらいしっかり感じ取れるかということです。

 また、大会社の場合は、常勤監査役と非常勤の社外監査役がいます。社内の往査活動の多くは、社内の事情も把握し、人脈もそれなりにある常勤監査役の仕事だと思いますが、客観性を持って、世の中から見てどうだというようなものを判断するのは、社外の監査役の方です。しっかり提言してもらって議論していくという仕組みが大事だと思います。

 法律をいろいろ強化しても、結果として不祥事が起こってしまっては、大変不幸なことです。不祥事を起こさないようにするためには、私たちが持っている本来の機能をもっと発揮していかなければなりません。
私自身も、実は監査役になって初めてわかったことがたくさんあります。現場を回れば回るほど、監査役が持っている力の大きさを実感しています。私自身これは承知していなかったことです。ですから、私たちが果たすべき役割は大いにあると思っています。大事なことは、まず監査役自身が、そのことを十分認識することだと思います。

神野 私もそのとおりだと思います。特に監査役は、事が起きてからというよりも、事が起きる前に、やるべきことをやることが何よりも大事だと思います。

kanno.jpg 今回の企業不祥事の後、当社の監査役会では、会計監査人に来てもらってかなり意見交換をしました。社外監査役で弁護士の先生や会計監査人からは、「不正の発見はいつもあるわけではないが、いろいろな事象において、常識でもって『これはおかしい』と直感することが大事だ。それから、事実の裏付けを取りに行く。検査でも監査でも、そこから始まるんだ」という話がありました。

 「おかしい」と直感するために何をするかという話ですが、まず経営執行のいろいろな活動をしっかり把握しておくことです。
そのためには、日頃からしっかりと経営執行との意思疎通を図っておくことが何より肝要です。

 経営執行との意思疎通にあたっては、肩肘張って対応するよりもむしろ、会社の成長を同じように願う一員として、経営執行の活動を支援するスタンスで、話をいろいろ聞いていくことが何より大事です。そういう積み重ねが、何かあったときに「おかしい」と感じる基盤になるのではないかと思います。これは日常監査そのものです。

 一方、会計監査の分野では、やはりプロである公認会計士の所属する監査法人の力に期待するところが大きいです。従って会計監査にあっては、むしろその活動をできるだけ支援するようなスタンスに立ちたいと思っています。

 監査役が問題意識を持っている事項について、会計監査人に情報提供することとか、会計監査人に一部同行することもそうでしょうし、会計監査人の問題提起に対して積極的に問題解明にあたる等のいわゆる会計監査人が監査しやすい環境の提供が大事だと思います。

 最後にいざ不正の発見をした場合の対応ですが、トップが関与していた場合は、会長が新聞でお話しになったとおり経営者と対峙する姿勢が必要であり、非常に厳しい立場に置かれることも覚悟しなければなり
ません。そのときは、職を賭す覚悟が必要ということではないでしょうか。今回の不祥事の例を見て、「日頃から、覚悟を持って監査業務にあたれ」ということだと思い至りました。

太田 私も最後は職を賭す気持ちがないとだめだと思います。今回のオリンパスの事件は、株主から提訴請求が出されています。
また、会社自身が社外2名、社内3名の合計5名の監査役に対して10億円の損害賠償請求を行っています。これ以外にも、株価暴落分に対する損害賠償請求が、別途あるということです。

 前者について言えば、この間、ある弁護士も言っていましたけれども、これは恐らく重過失ということで、そうなると、単純に1人2億円のペナルティーとなります。それを払える人はほとんどいないでしょう。
そういうことを考えると、監査役という職務を簡単に考えてはいけません。引き受けるときには相当の覚悟が必要です。社長から、「今度、監査役をやってくれませんか」という話があると、皆さん、大体その場で、「はい」と言いますが、本当はよく考えなければいけません。それを考えろと言っても難しいですけれども、それぐらいの気持ちで、監査役を引き受けないといけないということです。

神野 監査役に就任を命じられたときには、それほどの覚悟を持っていたわけではありませんでした。

太田 普通はみんなありませんよね。ただ、法改正や権限強化の歴史を見ても、監査役はある場面においては、会社を代表する立場にもなります。そういうことから見ると、世間あるいは企業経営者が思うほどには簡単な仕事ではありません。監査役に就任して、監査役協会の研修会を受けると、そのことを徐々に実感します。3年目、4年目くらいのベテランの監査役になると、脇も締まって、言うべきことは言わなければという気持ちが身につきます。新任の方には難しいと思います。

今川 やはり啓蒙活動が必要だと思います。先日ある弁護士の先生が、この間の事件について、「結局、会社のためにやったとしても、後でその会社があなたを訴えるんですよ」と言っていました。事が起こったときは、自分のためではなく会社のためにしたことでも、後で自分にかかってくるということです。

﨑山 監査役、監査委員の候補者を選ぶ経営者の側にも今言われたようなことを十分に理解し、会社を正しく守るために仕事をしてくれるしっかりした人を選定するような見識が求められますね。

太田 これは難しいですね。口うるさい人であればいいということではないですから。



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