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役員人材バンク利用者ならびに就任者のインタビュー

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※「役員人材バンク」には、現在約750名がご登録されており、当システムを通じて、2014年は21名、2015年は36名、2016年は43名、2017年は40名、2018年は31名(7月末現在)の方が監査役等に就任されております。
 今回は、2018年に常勤監査役に就任されたAさんに、登録から現在に至るまでのお話を伺いました。


 VOL.30 [「月刊監査役」2018年9月号(NO.686)]
Aさん:65歳(就任時)
就任した方
 
 
精密機器関連メーカー出身、同社の常勤監査役を経て、サービス業関連会社の常勤監査役に就任

 

●「役員人材バンク」に登録するきっかけ・動機はどのようなものでしたか?
 私は、1部上場の製造業で40年間ほど勤務いたしました。海外駐在が多く、営業、マーケティング、生産管理、企画、内部監査などを経て常勤監査役に就任し、2017年6月の定時株主総会にて、64歳のときに任期満了で退任することになっていました。退任後、すぐに再就職をするかそのまま完全リタイア生活をするか、まだはっきりと決めたわけではありませんでした。最後の株主総会までは監査役業務に集中することとして、退任後のことについては株主総会後に改めて考えようというスタンスでおりました。(人によってはのんびりし過ぎではとの指摘もありましたが、そのまま自分流で進行しました。)
 一方で、私は日本監査役協会の実務部会にも参加させていただいていたので、諸先輩方からの情報などで「役員人材バンク」の存在は認識しており、「退任後も監査役として働く気があるなら、役員人材バンクに是非登録したらいいですよ」と、複数の方々から役員人材バンクへの前向きな評価や助言を頂いておりました。
 そんな私が、初めて日本監査役協会の役員人材バンクのWebページを開いたのは、株主総会も直前に迫り、机の周りも棚の書類も荷物もきれいに片付いた後のことでした。「長年お世話になった会社で、全力でやり切った。ホッとした。区切りをつけて休んでみたい」という気持ちと、これまで経験してきた多くのことを、「どこかの企業で何かお役に立てることができないだろうか。このままでは何かもったいないような……」という気持ちがないまぜになった、奇妙な瞬間でした。
 そのときです。「やはり、まだまだ社会に貢献してみたい」「監査を通じた私の実務経験が、特に若い企業には参考になるのではなかろうか……」という気持ちが自分でも驚くほど強く湧いてきたのです。あとはもう電光石火。役員人材バンクへの一気呵成の申込みを済ませた自分がいました。
 監査役を求人する企業の多くが、IPOを目指す若いベンチャー企業ということも部会の先輩たちからお聞きしていたので、この点も、私が貢献したいと考えていた若い企業と合致していると思いました。当たり前ですが、上場企業や大企業は自前ルートで幾らでも調達できますから、我ら監査役経験者の再就職ニーズの多くは、正に“そこ”にあるというわけです。
 民間の人材あっせん会社のサイトで「監査役(経験者)用の登録」等のページも拝見しましたが、彼らは成功報酬額の低い未上場会社の監査役のマッチング業務にはあまり注力しないだろうと見越して、私はそちらには一切見向きもしませんでした。日本監査役協会の「役員人材バンク」は、求人側と私のニーズがピンポイントで合っている大変効率の良いインターフェイスであり、かなりの期待感を持って登録をしました。実際、ここ一本に窓口を絞って就職活動を行いました。

 

●WEB登録及び履歴書の記入において、どのような点に留意されましたか?
 何しろ、面接を“受ける”側になるのは30数年ぶりのことでしたので、WEB登録や履歴書の記入に際しては、まずネットで基本的な実例集などを幾つかチェックしてそれらを参考にしました。
 ただ、それらの記入・提出については、当該就職活動全般についての情報が不可欠でもあるので、私の場合は、事務局の方に電話でポイントも聞いてみました。やはり自分だけで考えて作成するのではなく、多くの“再就職者”を送り出した事務局の蓄積情報に耳を傾けて、活動の現実・実態を知ることは大変有益でした。
 その過程で、このWEB登録で留意する最大の項目は、「希望報酬額」ではと気付かされました。なぜなら、この入口で条件が合わなければ全ての扉は閉ざされたままだからです。また、求人側にとっては、条件が容認できるかできないかの単純明快なYES/NO項目であり、乖離が大きければ面接することすら無駄になるので、書類選考で落選確実となり得る最大の分岐点でもあるわけです。
 求人側の多くがIPOを目指す若い未上場ベンチャー企業であり、監査役に支払える報酬には限度がある―この現実を見据えることがまず大事なステップです。
 (これは、後々の面接でのやり取りにおいて、更に確信することとなりました。)
 これまでの就任体験談も読み直し、現実的なレベルを反映した上で報酬額のレンジにも幅を持たせ、常勤と非常勤の2本立てで希望報酬額を簡潔に記入するように修正しました。求人側の、時間がない慌ただしい候補者抽出のときでも、目に留まる確率が上がるようにしたわけです。
 もちろん、報酬以外の項目の差別化も大切です。特に、「自己PR欄」です。これには、過去の時代の就職活動では作成したことがなかった「職務経歴書」を詳細に作成してみることが、大変有効でした。(これもネットで実例集をチェックして参考にしました。)「自己PR欄」に何を書き込んだらよいかの回答は、自分で作成した職務経歴書の中におのずと書き表されていますので、これを上手く要約・凝縮させて、求人側にすんなり自然に響く「自己PR」につなげていければ、求人側の注目度は更に上がるはずと考えました。
 ただし、この「自己PR欄」の記載は、あまり売り込み過ぎというかアピールが強すぎると、逆効果にもなり得るので注意が必要です。必要以上に過剰な“大物感”“万能感”を漂わせると、求人側が尻込みして敬遠してしまうケースがあることも読み込まなければいけないと思います。(これは、後の面接時にひしと感じた印象です。)
 求人側は、IPOで監査役を含む体制整備を迫られている事情が先行している側面もあり、本質的な監査役制度や監査役の意味・役割についての知見は、まだこれから積み上げるという状況も多いようですので、最初の閲覧書類上での自己PR(紹介)では、経歴の中のポイントを、分かりやすく伝達できるように整理する程度のスタンスでよろしいのではないかと思います。

 

●登録後、現在の会社に就任するまでの経緯を教えてください。
 また面接等における留意点・アドバイスがありましたら教えてください。

 就職活動期間は、あまり焦らないようにと、最低1年間くらいを想定していました。当初、私は3月決算企業が多いので、就任は来年の6月くらいかもしれないとも思っていましたが、ベンチャー企業(IPO)の多くは、IPOの直前々期から直前半期に、まず常勤監査役を決めるというパターンが多く、3月決算でも臨時株主総会で選任するという傾向にありました。また、総会を待たずに「すぐに来てほしいので、総会まではアドバイザーとして出社してください」との企業もありました。私の場合は4月就任でしたが、時期にこだわる必要はないかもしれません。
 事務局から履歴書が閲覧されたという最初のメールが来たのは登録から3か月後のちょうど、“長い夏休み”を終えた頃でした。そこから2018年3月までの間に、合計5社の面接を受けました。全てIPOを目指すベンチャー企業で、お声を掛けていただいた企業にはその段階でえり好みをせず、積極的に全て面接に行きました。ネットで企業のホームページを見ても未上場企業では情報が少ないということと、何よりこの目で企業側の人と直接会い、事務所も直接拝見することが相互理解の早道と考えていたからです(百聞は一見に如かず)。また、久しぶりの面接に臨むに当たり、面接に慣れて面接勘を養う意味も正直ありましたし、その効果もまた大でした。
 初めのうちは少し緊張していた面接も、そのうちに就職活動を、むしろ自ら楽しんで、積極的に動き回る自分にふと気が付くこともありました。ある日、家族からも、「お父さん、何だか楽しそうじゃない?」と!?(いやいや大変なんだよ!)1年前には、こういう展開は全く想定していなかったので、実に不思議な気持ちが湧きました。
 面談での印象が良くなければその後お断りする、というのは求人側も求職側も全く同じなので、そこは割り切りました。こちらもお断りするわけですから、逆に企業側から採用を断られても、落ち込むことはナンセンスです。この会社とは御縁がなかったと、きれいさっぱり忘れるようにしました。切替えの早さも大事です。
 面接の結果は3勝2敗でした。結果として、IPOを目指すサービス業関連のベンチャー企業に、2018年4月から常勤監査役として勤務しています。9か月間の就職活動でした。
 5社の求人は全て常勤監査役のみで、非常勤監査役の求人は皆無でした。業種は様々で、売上規模も約10億円/年から約150億円/年と大きな差がありました。いずれも創業10年前後。監査役ポストも、常勤監査役の新設、常勤監査役の任期満了による後任、常勤監査役の任期途中の退任(御病気)の補充などこれまた多様でした。
 大学新卒の就職ではないので、職種を選べるほど多くの求人企業があるとは考えていませんでしたし、その企業の安定的な発展の可能性は検討しましたが、そもそも監査役としての就任なのでどこでもやることは一緒だと、業種には一切こだわらずに全方位OKの立場で臨みました。
 面接は、どの社も1回目は人事部長や管理担当取締役と行い、そこで通れば2回目は社長(及び取締役や監査役)との面接という段取りでした。当然、複数の企業を掛け持ちで面接を行うことになりますが、掛け持ち状態については正直に企業側に話をして、相互理解下での進行を心掛けました。
 面接の際に持参する書類については、履歴書は、ひな型をネット検索しPCで入力して印刷、写真は写真館でのカラー撮影版を使用しました(やはり印象が全然違いますね)。職務経歴書(PC入力・印刷)は、企業側から要請がない場合でも持参・提出しました。職務経歴書の具体的な内容に各社とも大変興味を示してくださり、質疑応答もそこから多く生まれたので、ツールとして重要だと思います。
 1社だけですが、履歴書と職務経歴書は、メールで事前にPDF又はWord送信してくださいという会社がありました。一瞬PC操作能力のチェックをされているのかなとも思いましたが(若い企業にとっては、65歳の人のPC操作能力が未知なので?)、いずれにしても自宅での一定レベルのPC環境の整備も就職活動には必須と思います。
 また、せっかく会社を訪問するのですから、面接官のお人柄だけでなく、最初に案内してくれた社員の対応、会社内の雰囲気、事務所の整理整頓状況など、確認できるものは全てチェックをして、求人側同様、求職側も短時間で十分な「品定め」を行って総合的な判断の際の参考にするようにしました。
 面接では様々な条件面などについて率直に意見交換をしました。希望報酬額は役員人材バンクに登録した情報を企業側もお持ちですから、そのレンジでOKであることを相互に確認することは当然ですが、求人企業の規模として、妥当で現実的な監査役の勤務実態(勤務日数や勤務時間等)はどのようなものかについての企業側の見解も確認しました。この点については、企業側から先に申し出るケースも複数ありました。内部監査室の設置予定時期なども、監査役候補としては大きな関心事でもあるので質問をしました。
 上場企業のように確立された常勤監査役・監査役会の業務パターンとは決定的に異なるので、入社後にこんなはずではなかった…と“お互い”が後悔しないように、面接中にタイミングを見て確認したい点はオープンに意見交換をすることを心掛けました。

 

●現在の会社から就任要請をされた際、どのような点が評価されたと思われますか。
 現在の会社の、1回目の面接(管理担当取締役/人事部長)もさることながら、特に2回目の面接(社長/取締役/監査役)を行ったときに、もう既に社長の第一印象で、ああ、こういう誠実そうで人間的な人とならやっていけそうだな、というインスピレーションが閃きました。やがて、和気あいあいとした何とも言えないほぐれた空気が面会室に満ちてきたのを感じて、私としてはこの会社に草鞋を脱ぐことになるのではないかな(昭和の表現で失礼!)、という直感を抱きました。
 実は、入社して1か月ほどした後、面接官でもあった管理担当取締役とざっくばらんにそのときの面接や、私以外の多くの候補者を含んだ監査役採用決定に至る経緯を、簡単にお聞きする機会がありました。
 面接を通じて会社側が判断した私の採用理由については、たった一言。「人柄ですね」「人間性ですね」そこがもう最大のポイントですと。びっくりしました。なぜなら、それは、私が面接を通じてこの会社の経営陣とお会いした際の、私の入社志望理由と全く同じ「価値観」であり、「印象」だったからです。そして私がもう一つ付け加える言葉があるとすれば、それら全てを含めた意味での「リスペクト」だと思います。
 (私がこれを言うのは実に口はばったいのですが、しかし、これは実際にあった話なのであえて書かせていただきました。)
 これを聞いたときは、驚くとともに実に嬉しい気分になりました。これぞ、「御縁」以外の何物でもないと。こういう出会いに巡り会えることはなかなかあるものではないです。
 もっとも、幾ら「人柄」や「人間性」と言っても、それは主観的な領域でもあるので、当然多くの候補者の職務経歴書の中身も細かく読み込まれています。現在の会社は売上規模も約120億円/年と未上場企業としてはかなり大きく、国内だけでなく、海外にも複数の子会社を持っています。私の場合、営業・マーケティングや企画のほか、長年の海外駐在で海外子会社の社長なども経験しているので、監査役の役割の中で、幅広いマネジメント視点でのアドバイザリー・スタッフ的な領域も期待・評価された可能性があります。
 また、内部監査時代の欧米やアジアにおける国内外の頻繁な往査経験などの現場訪問型の経歴が、この会社の一つのモットーである、現場重視の感覚にフィットしたということも想起されます。
 しかし、私以上の立派なキャリアの候補者の方々が多くいたことは事実でしょう。なぜ、私が評価され最終的に選択されたかについては、先ほどの「人柄」「人間性」に代弁されていますが、それが意味する重要な要素には、「上から目線で話をしない」「大企業・上場企業前提の話をしない」「現在の会社のガバナンス実態を直視し、現実的な改善対応をする姿勢」などの面接時の態度や言動への評価が含まれていることは、改めて感じ取っているところです。(実は、数社の面接経験を経て、この辺りのポイントは私自身が注意すべき点と気付いたので、後半の数社では、意識して丁寧な対応を心掛けた経緯があります。)

 

●就任されてから数か月が過ぎましたが、いかがでしょうか。
 現在の会社にお世話になってから、数か月が経過しました。僅か数か月ですが、自由でしなやかな社風や雰囲気は、想像したとおりのものでした。社長が30代後半、社員平均年齢が30歳と若い会社です。で、私が65歳(!)。白髪は私だけ。会社は若く、創業以来増収増益を続けていることもあり、若い社員たちが何やら楽しげに会社に来ているように見えますね。彼らはすぐにノートPC片手に三々五々集まり、そこかしこで打合わせを始め、また席に戻って仕事を進める、いわゆるフリーアドレススタイルを当然のようにこなしています。いかにも風通しが良さそう……。
 「そうか、そういうことか!」会社=Companyの語源が、そもそも“共にパンを食べる仲間”であったことを思い出しました。良くも悪くも“昭和の人間”(それはそれで誇りです!)である私としては、目からウロコの働き方改革。そう、私自身が働き方改革の真っただ中にいるのです。
 今後、より重層的に整備していかなければいけない、ガバナンス、コンプライアンス、内部統制などの重要性を、トップ以下幹部の方々は十二分に認識しています。そこに関しては、無理のない時間軸で監査役として経営陣と共に協業していくことが、我々のコンセンサスとして共有されていると認識しています。
 また、私の就任と同時に、内部監査室も(管理部員の兼務ですが)社長直属の組織として設置され、三様監査の片鱗が形成されつつあります。形式だけ整えようとする会社も多い中、非常に思考が柔軟かつ誠実で、理解のある経営陣であると感じています。ベンチャー企業だからこそのフットワークの良さではないでしょうか。
 もちろん、これからの長い企業活動においては、思いもよらぬ逆風や苦境に立つことがあるでしょう。成功体験しか知らない若い企業であれば、そういうときにこそ(そういう事態になる前にですね)我々の波乱万丈の経験が生きるのではないかと、心密かに任じてもいるところです。
 いずれにしても、高い志を備えた若き経営者たちをサポートすることは、正に私が考えていた第二の監査役人生にぴったりのものです。日本の新時代経営者たちへの支援、大げさに言えば日本の次世代経済への地道な社会貢献とも言えるかもしれません。当社の経営陣は、分からないことはいろいろと相談してくれます。もちろん、監査役としてのラインは越えず、これまでの社会経験で多様な観点からアドバイスすることができます。そして、経営陣は、それを真摯に聞き入れてくれています。相互の理解とリスペクトを持って向かい合うことで、我々のいわゆる大手企業での多彩な経験が、必ずや彼らの成長に貢献できるものと確信しています。そして何よりも、必要とされる喜びに優るものはないと実感しています。

 

●最後に、これから登録される方や役員人材バンクを利用される方へメッセージをお願いいたします。
 まず、第二の監査役人生を目指すに当たっては、過去の(特に大企業・上場企業の)恵まれた物理的環境とその良い思い出を、全部リセットして捨て去ることですかね。ここで一回断捨離です。考え方を切り替えて、過去の業務で得た「経験」と、その過程で成熟した人としての「人間性」だけを持って、再就職活動に臨む気持ちが大切だと思います。
 本原稿執筆時はお盆が近いせいか(?)、何だかお坊さんの説教みたいな話になりますが、これは本当にそう思いました。報酬しかり、名刺しかり、巨大本社ビルしかり、ビジネスクラスしかり、監査役室しかり、秘書しかり、監査スタッフしかり、自動車通勤しかり、全て固定観念も含めて丸ごと捨てました。
 そうすることで、見えてくるべきものが見えてくるはずです。
 「自分は何をしたいのか?」「自分は何ができるのか?」
 監査役経験者という特別な経験を持った我々は、幸運だと言っていいと思います。その特別な知見と経験がゆえに、我々には「必要とされる」領域がまだまだたくさんあるからです。IPOを目指すベンチャー企業などはその代表例です。その世界は、単に今まで私たちが直接知る機会がなかっただけのことです。一度、精神の断捨離をすれば、その機会は目の前に現れてくるはずです。
 昭和も遠くなりにけり。平成企業? いや平成も来年で終わりです。日本でももう次の時代の企業経営が始まっています。今の若い創業者・経営者たちを見ていると、日本はまだまだ大丈夫だ、まだまだやれると心より感じています。「働き方改革」はもはや新聞記事の中のことではなく、正に今の、我々のテーマなのではないでしょうか。


貴重なお話をありがとうございました。

 
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